閑話194・『綺麗な自分に酔い痴れる』

恋心を自覚してからキョウが妙に優しい、自分の魅力を必死で俺に伝えようとしている様子はやや滑稽だが愛らしいとも言える。


そもそも俺の恋愛経験の全てはグロリアに支配されている、グロリア一色、でもキョウだと浮気にならない、結局は俺自身だからなっ。


湖畔の街でやる事なんて限られてる、二人でベンチに座って雲の形を言い合ったり一部の話をしたり、何時もと同じだが妙にグイグイ来る。


体を擦り付けて来るキョウ、まるで犬だな、普段は猫のように気紛れなのに俺が恋を自覚したら一気に攻めて来やがる、ぐいぐいぐい、うん、襲うぞ。


「ぐいぐい来る女は苦手だぜ」


「へえ」


ぐいぐいぐい……え、聞いてた、キョウが体を擦り付ける様子を冷めた目で見詰める俺、それが理想的な構図だが俺も男なので甘い体臭と柔らかい肉を感じて顔が赤くなる。


意識してしまえばこんなものだ、キョウは必死にぐいぐいしてるし、何より何でも上手に出来るキョウが恋愛には不慣れでこのような行動しか起こせない事に愛らしさを感じる。


マジマジとキョウを見詰める………まだ子供と言っても良い年齢なのに妙な色気がある、胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白、グロリアや俺と同じ修道服。


ベールの下から見える金糸と銀糸に塗れた美しい髪、太陽の光を鮮やかに反射する二重色、黄金と白銀が夜空の星のように煌めいている、見る者を魅了するような美しい髪も俺には当然の事として受け入れられる、一緒だもんな。


瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、黄金と漆黒、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている、グロリアや俺と同じ瞳だと思うと急に愛しさが込み上げる、わかりやすい自分自身に呆れる。


全体的に線が細くて儚げな少女、シスターである事は疑いようが無いがシスターの枠に収まるような個性でも無い、俺自身、キョウの姿を誰よりも良く知っている、そうか、俺ってこんなにも可愛いのか、自覚すると急に恥ずかしくなって来た。


「ん?どしたァ?」


「あんまりぐいぐいするんじゃねぇ」


「………ど、童貞か、女の子にこんな事させて、少しはもっとねェ」


「好きな女に触れられたら誰でもこうなる」


「す、好き」


ボンっ、新雪を思わせるような毛穴すら見当たらない白磁の肌を真っ赤に染めてキョウが狼狽える、透明度のある血管が透けて見える程のソレが見る見る内に真っ赤に染まる、それは俺も同じだ、お互いに顔を真っ赤にさせて恥ずかしいぜ。


視線は泳ぐ、キョウは酔っぱらったかのような顔になって蕩けるような瞳でぐいぐいと体を擦り付けて来る、瞳はとろーんとしているし所作に覇気が無く何処か怠惰な雰囲気、俺に酔ってる?まさかな、そして自分も同じような動きをしている事に気付く。


なんだ、これ。


「んふふ」


「う、あ」


「んふふふ」


体を重ねた事は数え切れないほどあるのに服の上から重ねるこの感触に何故か酔い痴れる、自覚症状も無いままにキョウに染められてキョウを染める、同じ存在であるからこそお互いに直接的に干渉して支配出来る。


キョウの酔いが俺に伝染する、何だか蕩けるような感覚に俺もキョウの掌に指を絡ませる、こいびと、こいびと?おなじそんざいなのにこいびと………そのまま押し倒す、キョウは何処から見てもきれい、きれいきれいきれい。


「はふぅ」


「うぅ、キョウ、ちょっと重いよォ」


「これ、このきれいなのおれのォ」


「あ……そうだよ、キョウのだよォ、私はキョウのキョウだもん」


はふぅ、吐息が漏れる。


何時までも。

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