第367話・『子宮に入る?』

カタカタとファルシオンが震える、こいつも立派になったなァ、俺に餌がやれると喜んでいる、んふふ、可愛い奴め。


沖の方を見るとまた様子が違う事に気付く、水中を漂う植物プランクトンの蠢きを観察する、ふふ、灰色狐の視力と妖精の力を混合させると何でも見えるぜ。


魔力を帯びた不可思議な植物が生み出す光の届く水面近くで光合成を行い酸素を供給している、それがこの冷たい地底湖を地底湖ではあり得ない不思議なモノへと変質させる。


ウキクサ、ホテイアオイ、サンショウモなどの浮漂植物は地上の泉では風に流されやすく纏まった姿を見る機会はあまり無い、肥沃な水を必要とするのもその一因ではあるかな。


しかし様々な条件が揃うと急速に繁茂して湖面を埋め尽くすこともある、この地底湖ではそこまででは無いが中々の数が繁殖している、全ての水草がお互いに干渉せずに自由に繁殖している。


「不思議な世界だぜ」


「計算され尽されているようで無茶苦茶でもあります、竜の住処はこっちですよ」


「いやいや、竜の住処以前に誰かに見られてるぜ」


「そうですね、キョウさんの仰ってた存在ですかね、食べるならさっさと食べて……後はいちゃいちゃとデートを楽しみましょう」


「お、おう」


「あら、お猿さん」


「顔は赤いけどお尻は赤く無いぜっ!失敬な!」


「叩けば赤くなりますよ、ふふ」


「あ、あははははははは、じ、冗談きついなぁ、もう」


岩肌に隠れるようにして俺達を追跡している、竜の気配と人の気配が混ざっていて気持ちが悪い、気持ちが悪いけど食欲は溢れて来る、あれだ、珍味っぽいのか……この気配の主はさァ。


一般的に人工湖は生物の多様性が少ないと言われている、人間の技術では命の想像は出来無い、自然が作り出したこの奇跡のような地底湖を見ているとそんな事を思う、人間もエルフもエルフライダーも関係無いぜ。


自然は自然としてあるべき姿として世界に存在する……俺もこの地底湖と同じで世界に許された存在だ、人工的に生み出されようが何だろうが誕生しちまったのならしょうがねぇぜ、ふふふ、だからこの餌も餌のままで良いんだぜ。


「ファルシオンが餌だ餌だと騒いでるぜ」


「主と同じで何とも言えない気持ちの悪い機能を持っているのですね」


「え、俺に気持ちの悪い機能なんてねぇぜ、臍の尾でブッ刺して子宮に引きずり込む能力とかとっても素敵だと思う」


「ブッ刺しての時点で穏やかな能力では無いでしょうに」


「グロリアも俺の赤ちゃんになるか?」


「ふ」


「鼻で笑われたぜ!畜生!」


「いやいや、鬼畜の所業のキョウさんには敵いませんよ」


「畜生と鬼畜って兄弟か何か?」


「ふふ、おバカで可愛い」


「な、撫でるなっ」


ふと背後に気配を感じてファルシオンを抜く、グロリアの手を振り払って軽々と振るったファルシオン、何かに当たるが『弾かれて』しまう。


人型のソレが一瞬で飛び去って岩の後ろへと隠れる、んふふふ、気配を消して近付いたのか、でもファルシオンがカタカタ震えて教えてくれる。


餌だよ餌だよ餌だよ。


食べ頃だよ。


「みーつけた♪」


「楽しそうなキョウさん」


楽しいもん。

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