第三百六十六話・『撒餌は任せて先にいけ』

まずはその住処に驚く、洞窟の先には巨大な地底湖が存在していた、下へ下へと下って行く事に恐怖を感じたが繋いだ掌の温もりが心を落ち着かせる。


天井に生えている魔力を帯びた植物の煌めき……太陽の光と似たような効果があるのか地底湖にも関わらずに水面には伸び伸びと葉を浮かせるジュンサイ、アサザ、ヒシなどの浮葉性植物が大量に繁茂している。


波のようなモノが広がっているのは僅かながらでも水の流れがある証拠だろうか、近付いて手で波を感じると何かが絡み付く、どうやら水深の浅い所には水面下に根を張って水面上に葉を伸ばす抽水性植物が繁殖しているようだ。


「地底湖なのに植物一杯で幸せ」


「キョウさんは本当に植物なら何でも良いんですね」


「綺麗で可愛いじゃん」


「花……は咲いてませんよ」


「花が咲いて無くても可愛いぜ」


灰色狐の遠視と妖精の能力を複合させて水面を覗き込む、さらに深い所にも根が広がっている、水面下に葉を広げる車軸藻類などの沈水性植物も存在している、どうして地底湖でここまで多様性があるのだろうか?


あの魔力を含んだ植物が原因だな、岸辺の傾斜が緩やかになればなる程に水辺の面積が広がる、そのお陰で多様な生物が見られるようになるのは常識と言えば常識だがその一方で湖沼の面積が広くなると風浪の影響で生物は減少してしまう。


しかしこの地底湖は魔力を帯びた植物が延々と太陽の光を与えるばかりか地底湖なので風がほぼ無い、そのお陰でこれだけの多様性を実現している、この地底湖に竜がいるのだろうか?恐ろしく広く恐ろしく全てが整っている。


グロリアの話だとあの植物は元々この地に自生しているものらしい………そりゃそうか、全てを自然のままで愛する変な組織が管理する土地だものな、抽水性植物の生い茂る場所には魚類を始めとしたエビや両生類や水生昆虫などが生育している。


手でパシャパシャと水面を叩くと寄って来るものや逃げるものや様々だ、しかし全体的に警戒心が無いのが特徴、ここに住む竜は何を食べてるのだろう、魔力を得るのなら天井の植物の明かりで十分だろう、俺の中の魔物の細胞が喜びで震える。


「警戒心無さ過ぎて心配になるなァ」


「私が何時もキョウさんに感じている事です」


「え」


「私が何時もキョウさんに感じている事です」


「二度言わなくてもいいぜ、二度傷付くから止めて欲しいぜ!」


「私に言わせればその無防備さを今すぐここで止めて欲しいです」


「何時でもかかってこいやぁあああああああ」


「とりゃ」


「へぶっ」


足払いされた挙句にお腹を踏まれてグリグリされる、履き口に折り返しのある個性的なキャバリエブーツが容赦無く俺のお腹に突き刺さる、けぷ、吐きそう。


青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる美しい瞳が探るように細められる、エルフライダーの能力の酔いは酷さを増すばかりだ、こんな事をされるとマジで吐いちゃう。


ベールの下から覗く艶やかな銀髪を片手で遊びながらグロリアはもう片方の手で腰の辺りを弄る、胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白で引け目を感じてしまう。


同じシスターで同じ姿で同じ服なのに偉い違いだぜ。


「ぐぇえええええええええ」


「うわ、汚いですっ」


「おろろろろろろ」


水面におろろろろろろろろろ、魚たちが寄って来る。


たーんとお食べ。


「うぅううう、赤ちゃん産めなくなる」


「私が産んであげるから大丈夫です」


「そーゆー事じゃねぇ」


俺が産んであげたいのっ、しかし竜は何処にいるんだろう。


撒餌を沢山出そう、おえええええええええええええええぇ。


けふ。

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