閑話194・『自分恋愛肯定2』

キョウの中から現実の世界を見るのは何時もの事だ、キョウの思考は私の思考、視界と思考を共有して日々を生きている。


キョウの世界は狭くて小さい、そもそも出会った人間に管理されて狭い世界に追いやられた過去がある、何時でも誰かに利用されて来た。


それ故に従順で純情、それ故に小心者で意地っ張り、利用されやすい人格が形成された、ソレに反するように私は誕生した、いや、ずっとキョウの中にいた。


キョウが自分を護る為に生み出した『キョウ』が私だ、別人格では無く生理的に切り替わる特殊な存在、一部とは全く別の場所から誕生した、故に誰よりもキョウを想う。


そんなキョウの思考を読み取ってみればグロリアよりも私の事を考えている、狭い宿屋の一室で悶々と悩んでいる、そもそもキョウは頭が悪いので考えても無駄な事が多い。


それよりも直感で動いた方が良いような気がする、な、何だか意味不明なアドバイスを――――そうじゃない、そうじゃなくて、キョウが、ずっと私の事を考えている。


グロリアに恋するように。


「馬鹿馬鹿しいぜ」


忌々しい、そんな想いが伝わって来る、その場その場でいえばキョウは一途だ、何たって記憶を失うから過去の恋愛の記憶は無い、アクの事をあれだけ愛していたのにねェ。


だからこそ今はグロリアを愛している、その状況で私の事が気になるのが気に食わないのだろう、変な所でプライドが高いよね、自分自身の事なので平然と言える、勿論悪い意味でねェ。


どきどき、キョウは私と食事をしているシーンを思い浮かべている、不可能な事、肉体は一つなのだから絶対に不可能な事をどうして考えているの?そんな妄想、も、妄想、男の子の妄想。


好きな女の子とデートしているような、そんな妄想。


『どぉした、お出かけしないのォ』


見てるだけではアレなのでついつい干渉してしまう、お出掛け、私と『したい』と思ってくれている、でもそれは無理、私にはキョウと同じ肉体しか無いからねェ、二人で手を繋いでお外を歩く事は出来無い。


グロリアと同じような事は私とは出来無いんだよ、悲しいわけでは無く現実は現実として受け入れる、そしてそれを打ち破る為に私は存在している、キョウの最終目標はドラゴンライダーだけど私は違う。


貴方が欲しい。


「何だよ、出掛けたくないだけだぜ」


『嘘だァ、こんな何も無い部屋で一日過ごすつもりぃ?』


「そうだぜ……グロリアがいないなら何処にいても同じだろ」


『んふふ、さっきまでグロリアじゃなくて私の事を考えていた癖に』


「――――」


『何とか言えよォ』


イライラする……そうやって誤魔化して誤魔化して私を否定する、キョウは私の事が大好きなのにグロリアと比較すると『こんな風』に扱われる、ソレが気に食わない。


私の口調で何か気付いたのがキョウが大きく深呼吸する、グロリアだけでは無く私を見てよ、だって浮気にはならないんだよ、私は俺で、俺は私で、二人じゃなくて最初から一人。


グロリアと同じくらい、私に夢中って認めろよォ。


「考えてたぜ」


『ん』


素直に認めてくれた、とても嬉しい、とてもとても嬉しい、とてもとてもとても嬉しいのに何故か何も言葉が浮かばない。


嬉しい。


『す、素直じゃん』


「……恋じゃね?二股か……でも俺だから、二股じゃないか」


『あー、き、聞こえない聞こえない……ふふ、キョウのばーか』


隠しきれない喜びが少し嬉しかった。

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