閑話193・『自分恋愛肯定』

最近のキョウの行動は何だか怪しい、まるで絡み付くような視線、獲物を絞め殺す蛇を連想させる、だけれどそこに隠しようが無い愛情があるのも確か。


そんなに自分自身を求めても自分しか無いのに、空っぽなのにどうしてそんな無駄な事をするのだろうか、俺がグロリアを求めるのとまた違う事だぞ。


虚無感は無いのだろうか、何時も俺の前では朗らかに笑ってるけどさ、そして邪笑するけどさ………そもそもどうしてこんなにもキョウの事を考えないと駄目なのだろう。


あいつは俺なのにどうして俺は私の事を考える時間が多いのだろうか?俺は、おれは、知らない内にグロリアと同じぐらいキョウの事を考えている、同じくらい、同じくらい好き?


現実世界、ここは現実世界なのにキョウの事を考えているのがその証拠だ………湖畔の街では無いのにキョウの事を考えている、まるで毒が回って来たかのように、毒が、何の毒だよ。


キョウの毒。


「馬鹿馬鹿しいぜ」


誰もいない宿の一室でそう吐き捨てる、今日は一人っきりだ、孤独な日、だからこそ外に出て何かしようと考えていたのにこうして部屋に引き籠ってキョウの事を考えてしまっている。


軋みが愛嬌の年季の入った木の机の上に置かれたお小遣いを見詰めながら溜息を吐き出す、グロリアが帰って来たらあれで一緒に食事しよう、そうしよう、なのにキョウと食事しているシーンが浮かぶ。


あいつは俺だから一緒にご飯を食べれない、いや、一緒過ぎて食べれない、結局は一人で食事をしている事にしかならない、あいつに別の肉体があれば別だけど……それは考えては駄目な事だ、砂嵐は出ない。


禁じられてはいない。


『どぉした、お出かけしないのォ』


砂糖を熱で溶かしたかのような熱と甘みのある声、脳内で響くソレに舌打ちするとクスクスクスとおかしそうに笑う、最悪のタイミングだ、きっと見計らっていたんだ、俺よりも何枚も上手で何倍も腹黒い。


それなのに好意と愛情しか無いのだから厄介だ、俺の現状を嘲笑うように軽快かつ愛らしい口調で何度も何度も問い詰めて来る、どうして出掛けないのかと執拗に何度も何度も、発狂しそうだ、嘔吐しそうだ。


ベッドに身を投げ出して呼吸を整えるとやっと『声』が静かになる、しかし囁くように俺を追い詰める。


「何だよ、出掛けたくないだけだぜ」


『嘘だァ、こんな何も無い部屋で一日過ごすつもりぃ?』


「そうだぜ……グロリアがいないなら何処にいても同じだろ」


『んふふ、さっきまでグロリアじゃなくて私の事を考えていた癖に』


「――――」


『何とか言えよォ』


少し砕けた口調、怒気を含ませて舌足らずのソレで俺に刃を突きつける、俺は何も悪い事をしていない、お前の事を考えていただけなのにどうして責められないといけないのだろう。


シーツに皺が広がる、波打つソレは俺の心のようだ、俺の心であるならばキョウの心でもある、こんなにも荒れ狂っていてどうしたんだ「、どうして俺がお前の事を考えていたら、だめ、なんだ?


だめ?


「考えてたぜ」


『ん』


一言認めてしまえばキョウは優しい声音で肯定してくれた、どうして先程まで怒っていたのだろうか、でも何となくわかる。


グロリアと同じくらいこいつが好きって事は、わかってるよ、何時も誤魔化しているけどさ、シーツの皺はより複雑さを増す、爪先でそれを弄る。


『す、素直じゃん』


「……恋じゃね?二股か……でも俺だから、二股じゃないか」


『あー、き、聞こえない聞こえない……ふふ、キョウのばーか』


隠しきれない喜びが少し嬉しかった。

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