第364話・『りゅうのこども』

洞窟の奥で浅い眠りの中で奇妙な気配を感じる、人工的な違和感が拭えない、生物なのか?


竜の守り人としてこの地に住み付いてどれぐらいの時間が経過しただろうか、幼くも小さな体は敵を排除する事に適している。


そう、人工的な生き物って点では自分も同じだ、竜種の細胞を人工的に移植された『ヒトガタ』なのだから、組織の闇の闇に葬られるはずの存在。


それでも今はこうやって任務を得て『使って』貰えている事に感謝を覚える、本来なら他の姉妹のように処理されているはずなのに見た目が人と大差無い事が救いとなった。


救い?同じ血を持つ姉妹を殺されて自分だけ生き残って救いも何も無いだろう、誰とも会話せずとも思考すれば思考する程に精神は完成される、あまりに長過ぎる時間が自分に様々な恩恵を与える。


組織の誰もがそのような恩恵を求めてはいないだろう、だけど仕方が無い、ここに自分を放置している彼らが悪い、訪れる者は正規の手順を踏んだものと聞いた……シスター……シスターだと、自分と同じ人工生物。


だけれどどうしてだろう、二つとも普通のシスターとは違う、あまりにも違い過ぎる、片方はあまりに完璧すぎてシスターにしても違和感のある気配、まるで地上に舞い降りた神のように欠点の無い黄金の気配。


これともし戦う事になったらどうしよう、戦闘に特化した自分だがこの気配の持ち主はあまりにも…………あまりにもだ、緊張してしまう、無意識で体が震える、なぁに、竜に手を出さなければ戦う事にはならない、大丈夫大丈夫。


体を小さくして呼吸を整える、問題はもう一つの気配、あまりに混沌としていてシスターの枠を大きく外れている、しかし隣のシスターと同じ黄金の気配を纏っている、その内に他の気配が混在していて一体何者なのか、恐ろしい。


集団が一個体に圧縮されたかのような違和感、いや、他の気配?これは一人の気配のはずだ、なのにそう感じてしまう様な違和感、恐ろしい、恐ろしい生き物だと体に流れる竜の血が告げている、強者である竜が強者から逃げろと命じている。


しかし前者のソレとは違って鋭利で冷徹な気配では無い、同じ黄金の気配でも何処か無垢で無邪気で陽気な気配、朝焼けのような、そんな色合いを纏った気配、だけれども内包した何かが周囲を無意識で威嚇している。


獣だ、竜はいないのか?それもこれも異端を極めたかのような気配、どれもこれも人間では無い気配、異才と異常が混じり合って混沌とした気配を垂れ流しながらこちらに近付いて来る、そしてそれに相応しい瘴気を垂れ流している。


高位の魔物でもここまで歪んだ瘴気をまき散らす者は少ない、本人に自覚症状はあるのだろうか、こちらの捉え方一つで戦闘になる、こちらの捉え方一つで殺し合いになる、だけどそれを思わないのは『人工生物』だから、これもまた誰かの思惑の内。


自然界でこのような異物が誕生するわけ無い、この哀れな気配のどうしようも無い生き物も自分と同じように誰かの思惑で製造されたのだろう、同族として何か感じているのか、製造された存在として何か感じているのか、同族嫌悪、同族好意、どれも違う様な気がする。


首を傾げる、まずは間近で観察する事から始めよう、そうしよう、この二つの気配、特に混沌とした気配の持ち主がどのような生物なのか見極めよう、それに見てみたい、自分よりも異様なこの気配の持ち主がどうしてここに来てどのような姿をしていてどのような――。


知らず知らず、夢中になっていた。


『え』


何かに夢中になる事なんて生まれて初めてで狼狽える、自分の声を聞いたのも久しい事だったのでその声に驚き体が勝手に威嚇状態になる。


恥ずかしかった。


『―――――――――――』


振り上げた手を下ろしながら真っ赤になったであろう頬に触れる、ひんやり、血の温度が竜の血の末裔であることを告げている。


普段は悲しいはずなのに、何故か今回は悲しく無かった。


もっともっと悲しい存在が近付いて来るから。


それがわかる。


わかる。


『――――――――――――』


だから見たいと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る