第363話・『崖と飴なら前者がすきぃ』

洞窟特有の黴臭さと湿気、髪の毛が傷んじゃうぜ、手櫛で弄っていたらグロリアにクスクス笑われる。


グロリアの言葉通り光が差し込むようになった洞窟はそこまでの緊張感も無く足元だけ注意しながら先を急ぐ。


苔や菌類が湿気を吸収して天然のトラップのように待ち構えている、しかし灰色狐の細胞をフル活用してバランスを調整する。


流石は野生動物と褒めているのか罵っているのかわからない微妙な単語が脳裏を過ぎる、何だか胸の内がギシギシ痛む、すげぇ怒ってる。


胸を手で擦るとそれが徐々に弱くなって行くのがわかる、甘えたがりな子狐だぜ、コンコン、あいつの鳴き声はもっと甲高いけどな、犬みたい。


「コンコン」


「どうしたんですか?」


「鳴いて見ただけさ、コンコン、可愛い?」


「可愛いですよ」


「ふふふふふ、そそられるか?」


「ええ」


「…………………………………………」


「露骨に距離を………おいで、飴玉あげますから」


「俺はガキじゃねぇぜ!何味だぜ!」


「イチゴです」


「…………………………………………コロコロ」


「一瞬キョウさんの将来が心配になりましたよ、ええ」


自分から飴玉くれたのどうして俺の将来が不安になるのだろうか、その因果関係を問おうとしたが飴玉が甘くて美味しくて『大玉』だったのでそんな事もどうでも良くなる。


最近、思考が幼くなっている気がする、そしてこの洞窟には魔物の気配も無いしついつい無防備になってしまう、あまりにも暢気すぎるだろうか?洞窟の探索は手慣れたモノだ。


グロリアはどうしてこんな俺にしたのだろうか、いや、自分の神様を生み出したいのは知っている、でもでも、こんなに幼くてぱっぱらぱーな神様で良いのか?自信がねぇぜ。


イチゴ味おいしい。


「コロコロ」


「キョウさん、そっちは駄目です」


「何でだ?コロコロ」


「崖です」


「ひぃいいいいいいいいいいいいい……コロコロ、甘い」


「切り替えの早さがやや怖いですよ」


崖に落ちたぐらいで死ねる体でも無いし、暫く歩くと湿気や黴臭さが無くなって涼しい風が頬を撫でる、ん?まるで違う洞窟の中へと飛ばされたような違和感。


グロリアは何も言わないから大丈夫だろうけど少しビビる、ビビった分は飴玉を多く舐める事で現実逃避する、コロコロコロコロコロ、無くなりそうになった瞬間にグロリアが新しい飴玉を投入する。


レモン味っっ。


「初めてのキスの味だぜ」


「私の味ですか」


グロリア味って何か美味しそう。

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