第362話・『つるつるはいい、つるつる』

島の中心にある洞窟にドラゴンは住んでいるらしい、ありがちだけどドキドキするな、グロリアが何度も『食べては駄目です』と口にしながら頭に手刀を叩き込んで来る、ハゲるぜ!?


「あそこもツルツルなのに頭もツルツルになりたくないぜ」


「キョウさん、段差があるので気を付けて派手に転んで下さい」


「矛盾っ、畜生、俺をハゲさせるだけでは無く怪我をさせたいのかっ」


「あそこもツルツルなキョウさんはつるんと転んで下さい」


「もうすぐ生えるしっ」


この島の洞窟の中は特定の気候条件の為にここでしか育たない生態系が形成されているらしい、また自然や動物以外でもこの洞窟では先史時代に人が住んでいた形跡が残されているとか……荒らしたら怒られるな。


歴史的に見ても文化の面から見ても貴重な資料らしいが今の人間が自然に文明を構築する事は否定して過去の人類が洞窟に文明を残す事は肯定する?やっぱりこの島を管理している組織は変な組織だ、納得出来無い。


白亜と石灰岩で形成された洞窟は俺達を歓迎するかのように暗い闇を見せ付けて来る、灰色狐の細胞を活発化させる、夜目はこいつが一番っ、灰色の尾と耳が生えるけど気にしない、グロリアに尻尾を無言で掴まれる。


「な、なにさ」


「いや、可愛いモノが生えたので驚きました、感覚はあるんですか」


「あるよ、あまり乱暴に扱わないでくれ」


「そぉれ」


「ひゃ、さ、触るなって」


グロリアから距離を置く、恐ろしい女だぜ、グロリアはグロリアで涼しい顔をして暗闇の中に足を踏み入れる、怖くは無いのだろうか?今更そんな事を突っ込んでも無駄なような気がする。


魔法で何か処理でもしているのだろうか………何もせずに暗闇に足を踏み込める勇気……そっちの方がグロリアらしい、後ろに続く、生き物の気配がする、島にいた動物と同じく独特の気配。


生態系そのものが歪んでいるように思える、この島特有のソレに首を傾げる、先程まで太陽の日差しを全身に浴びていたのに一気に暗闇に包まれる、闇ってのは何時も突然だ、恐ろしい。


「グロリア怖く無いのか?」


「何がですか?」


「いや、こんなに真っ暗だし、床もヌメヌメしてるし」


「………んー、怖く無いですね、キョウさんもいますし」


「なっ!?……うへへ」


「そうやってすぐに調子に乗る、それに入口は真っ暗ですが少し歩けば天井が開けてるので」


ああ、グロリアはここに来たことがあるのか、納得しながら後に続くのだがどうも歩き難い、素足になった方が良さそうだが行儀が悪いって叱られそうで怖い。


「あ、そこ段差ですよ」


「へぶっ」


今度は油断した、見事に転んでしまった俺をグロリアは見下ろしている。


「あそこもツルツルだから転ぶんですよ」


「グロリアもじゃん!」


「も、もうすぐ生えます」


それはどうかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る