閑話186・『耳朶遊戯』

人に改造されるのは好きでは無い、人間が人間で無くなるのは楽しい事では無い。


あらゆる権力者が美を追求したり不老不死を得ようとする、俺はそんなものに興味は無いが勝手に転がり込んで来た、ざーざー。


ざー、そうか、雨の音?砂嵐?理解出来ずに首を傾げたら全ての記憶が曖昧になって消えてしまう、最近は自分自身の『体』について考える機会が増えた。


キョウに膝枕をしてやりながら幾つか自分自身で整理する、そうしないと自分が消えてしまいそうでわからなくなりそうだからだ、キョウは俺に全てを隠している。


まずはキョウだ、キョロにしてもそう、エルフライダーはあらゆる事を忘れて自分の精神を保つ、その負荷はメインである俺が引き受けてキョウやキョロはそれ以前の記憶を保持している。


必要に応じて過去の記憶を俺に見せてくれるが俺が求めるような『大きな変化』以前の情報は最小限にしか与えてくれない、それがどのような事を意味するのかは簡単だ、俺が壊れてしまうから。


つまりキョウやキョロは俺自身でありながら俺の知らない情報だけでは無く失った技術や一部を保持していると言っても良い、この位なら『砂嵐』は邪魔しないか?悔しいけどキョウを信じて情報を求め過ぎないように気を付けないと。


エルフライダーはエルフを食べる事で肉体や精神を維持する、完全に覚醒してから暫くエルフを食べない時もあったけど飢餓状態になって大変だった、エルフかエルフの要素を持っていなくても『食べれる餌』は沢山いる。


だけどやはり何処かでエルフを捕食しないと心が壊れてしまう、グロリアはそれを利用してエルフでは無い存在を俺に与え続けたせいでエルフライダーは他の生物の味を覚えてしまった、悪食の生物として生まれ変わった。


それを修正するつもりは無いが死なない為にエルフを食べないと、グロリアは定期的に与えてくれるけどさ、村一つ分のエルフを食い尽くした事で大分安定したけど旅の途中でグロリアの目を盗んで餌の補給をしないとな。


グロリアはグロリアの望むエルフライダーを育てようとしている、俺はグロリアの事が好きだしグロリアの事を応援したい、なので命令には従うけど体を壊すのはなァ、なのでエルフをつまみ食いする事でなんとか体を安定させる。


一部に関しても謎が多くある、ざー、これだ、ざーざーざー、うぁ、キョウの頭を撫でている、かわいい、もう一人の俺、一部に対して深く思考する事はキョウ達について考えるよりも難易度が高い、すぐに砂嵐が押し寄せて俺の思考を乱す。


「……キョウ、起きてるか?」


「寝てるよォ」


甘ったるい砂糖のような声、しかも粘度があって男の本能に訴えかけるような怪しさがある、しかし自分自身である俺には全く関係無いぜ、溜息を吐きながらキョウの形の良い耳をくすぐってやる、指先が楽しく蠢く。


「あふん」


「喘いだ、俺ってどうしてこんなに頭の調子がよろしくないんだろう……何も考えられねぇ」


「?……強制的に掻き消されるのなら諦めなよ、キョウを護る為の処置だからねェ」


「………耳朶の裏側の匂いを嗅ごう」


「おっ、生意気に逆らうつもりだねェ、嗅ぎたまえ、嗅ぎたまえ」


「は、恥ずかしくねぇのか……くんくん、お花の香りがする」


「ふはは、完璧美少女を舐めるな」


かん、ぺきびしょうじょ?口の中でその言葉を転がして見るがいまいち納得出来無い、容姿だけ見れば確かに美少女だけど俺の膝の上で欠伸を噛み殺す姿は決して完ぺきでは無い。


もっと聞きたい事があるのにな、キョウは相手との会話を崩して自分のペースに持ち込むのがうまい、だからこれは仕方の無い結末だ、そもそもはぐらかすって事は俺に教えるべきでは無いと判断している。


どうやったらキョウを出し抜けるのだろう。


「何だか男の子の顔してるね、キョウ」


「何時もキョウに鍛えられてるからな」


「そーゆー感じじゃないかな?………もっとこう、私を疑う様な、ふふ」


「―――怒れば?」


「怒らないよ、好きな子が何時までも反抗的で嬉しいの、キョウは女心がわかってないね、くふふ」


「う」


まだ出し抜けそうにねぇぜ。


畜生。

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