閑話185・『のこぎりでギリギリ』
どうしようも無い衝動に駆られるのはきっと失ったものが大きいからだと思う。
しかしソレに対してどのように失ったかを思い出せないので同じ所をグルグルと回ることになる。
思い出せない一部に対して思い出そうとする事が既に間違っている、それなのに思い出せ思い出せと脅迫される。
こわい。
「というわけで、脳味噌を捩じり出していらない部分を除去しようと思うんだが」
「ママ……落ち着いて、す、少し考えさせて」
「鋸は用意した、後はお前がやるんだぞ」
「少し考えさせてっ!」
「ほら、ちゃんと掴んでね、ちゃんと切ってね」
「ひぃいいいいいいいいい」
今日はグロリアがいないので肉体の調整が可能だ………だから鋸を握らせて笑顔で促す、俺の頭の中には俺の知らない一部が沢山いる?いる、いるよなぁ、それが妙にうざったいのだ。
だからこう、頭部を鋸で切ってさ、脳味噌を、その一部のいる脳味噌を、そう、少しだけ抜いて欲しいんだ、そうしたら頭の中がすっきりすると思う、だから信頼できるお前を頼ってるんだよ?
部屋の隅に移動して猫のように指で壁をがりがりする墓の氷、何を怖がっているのか理解出来ずに地面に投げ出された鋸を握る、使い方がわからないのかな、軽く揺らして遊ぶ、頭をちゃんと切って欲しいんだよぉ。
脳味噌は柔らかいけど頭蓋骨はかたいので、どうかお願いします、んふふ。
「ママ、ちょっと、ちょっとだけ私(わたくし)の話を聞いて下さいっ」
青色のサテンは鮮やかな光沢を放ちながら彼女の幼い体を包み込んでいる、裾の隙間から紅色のサテンが見える、裏地に付けて作られている、薔薇の縁飾りを付けて三日月の紋章が刺繍されている……それ以外にも多くの箇所に金糸刺繍がされている。
鮮やかで煌びやかな服装、こんな幼子に鋸を与えて――――いいじゃんね、それでもいいじゃん、玩具だと思えば違和感無いし、あまりに煌びやか過ぎて変な異性が寄って来ないか心配なので俺の血で赤黒く染めて地味にしてやればいい。そうだそうだ。
「安心しろ、血を沢山出す自信はあるぜ」
ぐぐぐ、無理矢理鋸を握らせようとするが顔面を蒼白にさせて首を左右に振る。
「ひぃいいい」
「大きくなったなぁ、俺の可愛い娘、もう一人で頭蓋骨を切断出来るもんなぁ」
「いやぁああ、で、出来ませんわっ」
「俺は娘を信じる」
「信じ無いでェ」
涙目になってガタガタ震えてる娘を見下ろしながらどうしたものかと溜息を吐き出す、何が嫌なのか全くわからん、鋸まで用意してやったのにっ、それとも鋸のデザインが気に食わないのだろうか?
「脳味噌の裏側で声がするんだ、頭蓋骨って丸いから反響するんだよ、だからそれを取り除いて欲しいんだ」
「ママ…………寝ましょう、ゆっくり寝て、美味しいものを食べましょう」
「エルフっ!」
「そ、そうですわ……エルフを食べましょう……街に一匹ぐらい……だからその手に持ってる物を」
「のこぎりっ!」
「置きましょうね」
「うん!……エルフ、エルフ、エルフ」
「……ふんっ」
べきっ、何かが粉砕される音、だけど俺は愛しい娘にエルフ狩りのデートに誘われて頭がお花畑なのだ。
気にならない。
「いくぞー、うへへ」
「…………………………」
泣きそうな顔をしてる娘だけどエルフを食ったら機嫌も良くなるだろう。
美味しいからなっ。
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