第359話・『甘えるか、媚びるか、舌を千切るか』
海を見ながら伸びをする、暗礁の大半の部分は厳しく規制されていてる、漁業や観光など人間による周囲の影響を制限しているらしいが今となってはこの街の歪みの象徴にしか見えない。
この完全に管理された生態系、それに打撃を与えるような環境変化は許さない姿勢でまだ早いこの時間帯にも浜辺に鎧を着込んだ兵士が常駐している、俺の方を見詰めていたので手を振ってやる、髭面を赤くさせて可愛い。
んふふ、あれ、おれだよな、キョウじゃないよな、うん。
「んふふ、可愛いのォ」
「朝っぱらかな何を盛ってるんですか」
「?……嫉妬か、くふふ、嫉妬なのかグロリア」
「良く喋る舌は噛み千切る事をお勧めします」
海沿いの道を歩きながらグロリアをからかう、しかし表情に変化は無い、素直に嫉妬していると言えば良いのに面倒で可愛く無い女だ、んふふ、キョウとの境目が少し曖昧だ、最近、ちょっとおかしい。
幾つもの島が珊瑚を囲むように展開している景色は見る者を圧倒する、そこには人工的な橋があるのだが大きな丸太を繋げたようなもので海水に耐えられるようなものには見えない、魔法で処理してるにしても些か雑だ。
「あれを渡って中心にある島まで行きます」
「あの橋……大丈夫なのか」
「早朝に盛るキョウさんよりは大丈夫ですよ」
「……か、からかった事を怒ってるのか?」
「盛ってる事を怒ってます」
「え、えぇぇぇ、手を振っただけだぜ」
「尻軽」
「ちょ、待って、待ってくれグロリア」
冷たく吐き捨てて先を急ぐグロリアの後を追う、凛とした背筋、周囲から切り離された美しい少女、現実の世界を否定するように己の美貌と精神の煌めきを持って周囲を圧倒する。
か、からかい過ぎたのが原因なのか、それとも男の人に色目を使ったのが気に食わなかったのか、ドラゴンを彼女と見に行ける最高の日なのに出だしでしくじった感がある、畜生。
そもそも男の人は好きだ、あれ、おとこ、うん、すきだよな、なんだろ、おかしくないのにおかしくないようにそれっておかしくない、おかしい、おかしい、いや、好きだよ、異性だもん。
色目使っても良いじゃん、喜んでくれてるし、他に変な事しないもん。
「グロリアぁ」
「甘えた声を出してどうしました」
「甘えてんだよっ」
「へぇ」
この地域では遥か過去に活発な火山活動や玄武岩流が続いたらしい、そして花崗岩が露出した事によってこのように幾つもの島が誕生した、やがて構造盆地が形成されるとそこに珊瑚が増加してこのような珊瑚海になった。
遥か過去から今に続く自然現象、グロリアの背中を追いながら空を見上げる、海原も素晴らしいがこの透けるように広がった青空も美しい、ふふ、だけれど俺が夢中なのは目の前を足早で行く一人の少女、横に並んでその手を掴む。
掌のサイズも同じ、同じになれた。
同じにしてくれた。
ありがとグロリア。
「媚びるのが……上手になりましたね」
「へへ、甘えるのが上手になったんだぜ」
少し空気が和らいだ。
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