閑話183・『グロリア的に最大のアプローチ』

シスターの体になっても以前と同じように猫科の動物を思わせるしなやかさを持っているキョウさん。


性格も猫っぽく気紛れで落ち着きが無い、それでいて興味のある事には目を爛々とさせて追及する、美点とも言えるし悪癖とも言える。


以前の暮らしの名残なのだろうか?植物や建築に関して疑問があると自分で勉強して疑問を解決する、難しい文字があれば私に素直に問い掛けて来る。


知識として知っていても他人からの言葉によってしっかりと脳裏に刻み込みたいのだろう、キョウさんの一部には私に匹敵する頭脳を持っている存在が何人もいるでしょうし。


そんなキョウさんはベッドの上で寝転びながら植物の図鑑を見ている、買い与えたのは私だがまさか自分が植物図鑑に嫉妬する事になるとは想像していなかった……そもそも割と珍しい展開なのだ。


教会に対する報告書も終わってそのついでで手付かずだった資料の整理も終わらせた、部下たちに対する報告書も出し終えたし諸々の手回しも終了した、つまり私は『暇』を持て余している。


普段ならそれはキョウさんの役割なのだがキョウさんは目を爛々とさせて植物図鑑に集中している、瞬きをしているのかと不安になる集中力、話し掛けても微動だにしない、遥か南方の植物を可愛らしいイラストと文章で紹介している。


無視をされるのは平気だ、しかし大好きな恋人に無視をされるのはこれほどまでに心が痛むのかと愕然とする、しかも意識的に無視されているのでは無く無意識に私の言葉を弾いている、傷付きますね、ムカムカ。


「キョウさぁん」


猫撫で声で名前を呼ぶがキョウさんからの返事は無い、ページを捲る音だけ静かな部屋に響き渡る、あれですね、次回からは買い与えるものも吟味しないとこのような悲惨な事になってしまう。


下唇を噛み締めてベッドの上に座る、キョウさんはベッドの軋みすら意識の外のようだ、頭を撫でてやる、くしゃ、癖っ毛が何時もの様に指に絡み付いて来る、シスターで癖っ毛なのは珍しい、色々と見た目は調整されますからね。


後天的なシスターのキョウさんだけの特徴、それをこうやって直接確認すると自分の罪の重さを理解出来る、そもそもキョウさんは夢を追って外の世界に飛び出したのだ、シスターになりたかったわけでは無い、このような姿になりたかったわけでは無い。


エルフライダーとして成長するにつれて貪欲さが増し食欲も異常になっている、これはエルフライダーに『エルフ』では無いものを与えて歪に進化させた私の罪だ、本来あるべき生物としての形を強制的に歪ませてしまった、だからこそ神に近付きつつある。


少しだけ、少しだけ、初めて出会った日を―――。


「いたたたたっ」


「あ、ごめんなさい」


「ん?グロリア、何時から俺の頭を撫でてたんだ?」


癖っ毛を指に絡み付かせたまま無造作にキョウさんの頭を撫でていたらしい、その痛みで流石のキョウさんも図鑑を放り出して顔を赤らめて抗議して来る。


成程、キョウさんが何かに夢中な時はこうやって痛みを与えてこちらに振り向かせば良いんですね、何事も経験してみないとわからないものです、ほくほく、良い情報を仕入れました。


「恐らくだけどさ」


「どうしました?」


「今グロリアが『良い発見です』と思った事は間違いだからな!いてててっ」


「私は自分の目で見たものを信用するタイプです」


「うわぁ……ぜってー無視されたら攻撃すれば良いと学習したわこの女っ」


そうですけど何か?植物図鑑がキョウさんの死角になるように誘導しながらその体に腕を絡ませる、私を無視した男も女も貴方が初めてですよ、ああ、憎らしい、愛らしい、妬ましい、誇らしい。


「次同じ事をしたら怒るかんな、つか抱き締めないでよ、俺はまだ――――」


「抱き締めますよ、大好きですもの」


「う、だから俺は――――」


「大好きですもの、抱き締めますよ」


「どっちでも良いっ!………変なグロリア」


口が裂けても言えない、貴方に相手されなくて寂しかっただなんて。


口が裂けてもっ。


「寂しいなら最初から寂しいって言えば良いのに、やっぱり変なグロリア」


「ひう!?」


変な声がでちゃいました。

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