第358話・『枕クララですよ』

目覚めると体が軽くなっていた、違和感は無く、力の加減を間違えることも無い。


今日はドラゴンを見れる日だ、ひゃっほー、目覚めてすぐに用意を始める俺にグロリアが目を擦りながら睨む様に凝視する。


な、何だぜ?髪を櫛で整えながら首を傾げる、何時もの癖っ毛は癖っ毛のままで櫛を弾くようにして抵抗する、むぅ、しかし負けぬ。


「私のキョウさんに戻りましたね」


「な、何を言ってる、朝から盛るのは駄目だぜ」


「違いますよ、変な意味に受け取ら無いで下さい、はふ」


「眠いのか?行くのはお昼頃だろ?まだ寝てていいぜ、何だか良い夢を見たような気がする」


「それはそれは、昨夜は妙に寝癖が悪くて裏拳が私の頬をかすめた時に殺意に従わなくて正解でした」


「なにその怖い話」


グロリアと一緒に寝るのは毎度の事ながら寝ている俺ってそんなにアグレッシブなの?聞く事も出来ずにへらへらと笑いながら明後日の方を向く、誤魔化そう。


恨み深く腹黒いグロリアの事だ、何処かしらで制裁を与えて来そうなので油断は出来ん、つか頬をかすめただけで当たって無いのだから怒る必要無くね?流石のグロリアも驚いたとか。


青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる美しい瞳が探るように細められる、グロリアが少しは驚くくらいに俺の身体能力も成長したって事で納得しよう。


「まあ、そんな事よりも私で無い女性の名前を寝言で呟くのは駄目ですね、ダメダメです、彼氏失格、彼女失格、人間失格」


「え、最後のひどくね」


「酷く無いです、それだけ私を傷付けたと反省なさい」


「…………」


「なさい!」


「す、するって」


雪景色の表面のように透明度のある肌、太陽の日差しを受けて淡く輝くそれを僅かに桃色に染めてグロリアが頬を膨らませる、美形ってのは卑怯なものでどのような表情をしてもその美しさを損なう事は無い。


美しい姿のまま愛らしい仕草をするグロリアについつい笑ってしまう、こんなグロリアを知っているのは俺だけだろう、可愛い嫉妬だ、殺意に従って俺を亡きモノにしようとしたが……うん、可愛い嫉妬で済ませて良いものか?


「しかしなんて女の子だ」


「さあ?どうして私が教えないと駄目なんですか」


「な?!意地悪言うんじゃねぇーですよ!」


「な、何ですか、その口調」


「え、あ、ん?何かおかしかったか?」


「……ふーん、変な事にならないと良いですがねェ」


無表情になるとグロリアの美しさがより極まって少し怖い、ピョンピョン寝癖があるのにそれすらもそーゆーお洒落に見える、完璧生物めっ。


「えい」


「いたっ」


突然グロリアが枕を俺に向かって投げる、あまりの早業に避ける事も受け取ることも出来ずに顔面に枕が叩き込まれる、口に出してしまったがそこまで痛くも無い。


「女の顔に枕を投げるとは………ほら」


「えい」


「へぶ」


―――――――――枕を投げて返したら先程と同じように高速で顔面に枕を投げつけられた。


「テメェ」


「良し、すっきりしました、お出かけの準備をしましょうか」


ニヤニヤと笑うグロリア、でも機嫌は良くなったようだ。


良かった。

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