第356話・『飴玉の記憶』
違和感は無い、それはそうだろう、俺は俺で俺の体は俺の体だ………だけど奇妙な『ズレ』があるように思える、違和感では無い、俺はこの体を理解している。
だけど食事中にナイフは落とすわ小さな段差で転ぶわグロリアとキスしようとして背伸びしても届かないとか何だかなー、あと力の加減を間違えてフォークを曲げてしまったり。
軽く人を叩いただけで肉片に出来そうだ、軽々と命を奪えそうだ、幼くも小さな体に制御するには難しい力が眠っている、ここまで不具合があっただろうか?悩んでも答えは出ない。
「ふむん、具合がおかしい」
「そうですか、まあ私から見たら一目でそうですがキョウさん的には理解出来ていないんですね」
「これではキスが出来無いじゃないか」
「私が合わせますから大丈夫ですよ」
「そ、そうか、それなら良いんだ………早く明日にならないかなァ」
「ドラゴンを食べたらダメですよ」
「た、食べ無いよ、信用ねぇな」
そりゃ悪食である事は認識しているけど流石に尊敬や敬意の対象になっている存在を食べたりはしないぜ、グロリアはお仕事なのか机の上の書類と睨めっこしながら相手してくれる。
俺はベッドの上でうたた寝しながら適当に会話を続ける、グロリアは俺の体の『差異』のようなものに気付いているようだ、だけど何も教えてくれないので会話でそれを引き出そうとする。
しかしそれもグロリアの方が何枚も上手で自然とどうでも良い話題に逸れる、俺としても本気で引き出そうとして無いしそもそもグロリアの事を全面的に信用している、故にグロリアが秘密にするにはわけがあるのだろうと納得する。
「シスター同士で喧嘩とかあるの?」
「そうですねェ、まあ、ありますよ……どれだけ調整しても女は女ですから」
「ふーん、村を出るまでシスターって完璧な存在だと思ってたけどそうじゃ無いんだな」
「あまりに問題があるシスターは何度も調整されて目から光が失われます」
「…………グロリア良くここまで大きくなったな、おいで、飴ちゃんあげる」
「ありがとうございます」
からかわれてるとわかっているのか言葉の通りにこちらに来ないので飴玉を凛と背筋の伸びたその背中に投げつける、こちらの方を見向きもしないで片腕で掴むグロリア、そうだよなァ、グロリアは人を騙すのが趣味だから大丈夫だったろうなァ。
「キョウさんは………私以外に恋をした事はありますか?」
「え」
「黒髪の少女とか」
「具体的だなオイ、ねぇよ………無いはずだけど……」
ザーザーザ―ザー、砂嵐は何時も突然に訪れて俺の大切なモノを全て掻き消してしまう。
吐き気のようなモノを感じて口を押さえるが何も出ない、透明な唾液が指先から零れる、ちかちかちか、瞼の裏で光が弾ける、とてもとても安心する。
「無い」
「それはまた、閉じられた世界で育った私ですがその事が一般的で無い事はわかります」
「無い、無い、無い」
「キョウさん?………いけませんね、少し踏み込み過ぎたようです」
――――無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い。
あく、が、どこにもない。
「飴玉、お返しするから泣き止んで、ね」
ぐろりあ、くちからとりだしたあめだま、くちにいれられる。
あまい、ころころ。
ころころ。
ころ。
あめだまもきえる。
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