閑話180・『強い虫は弱虫とは言わないけど虫ではある』
全く同じ重みのファルシオンなのに刃が重なった瞬間に大きくキョウが跳ねる、後方に転がってゆくキョウを見ながら溜息を吐き出す。
どうして無駄に飛び跳ねて攻撃をしてくるのだろうか、踏ん張りも出来無いし空中で無抵抗な状態になる、けほけほっ、キョウが砂利混じりの唾液を吐き出すのを見詰める。
近付いて手を出しだすと不貞腐れながら手を重ねる、持ち上げる際に感じる重みはほぼファルシオンのものだろう、シスターの体は軽くて白くて無駄が無い、そんな風に開発されている。
「勝ちだね」
「……まあ、キョウが勝とうがキョウは俺だから本当の意味で勝ち負けは無いけどなっ」
「捨て台詞だね」
「勝ち負けつーか個性の違いって奴?」
「言い訳だね、言い訳駄目」
「う、あ」
「涙目だね、可愛い」
抱き締めるとポカポカとしていて気持ち良い、だけど耳元でぎゃあぎゃあ騒ぐので耳の奥がキーンとする、どうしようも無いねェ、自分から訓練しようと言い出したのに結局は泣きながら抗議する展開に。
自分と全く同じ顔をした存在がこんな風に表情をコロコロと変える様を見ていると不思議な気持ちになる、私がこんな風に見っとも無く鼻水を流しながら泣いている姿を自分自身でも想像出来無いからだ。
それこそキョウは自分自身なのに不思議だねェ。
「じゅるる」
「私はハンカチじゃ無いんだけどなァ、負けて泣いちゃうぐらい悔しいなら強くなら無いと、男の子でしょうに?」
「じゅるるるる」
「女の子だもあるけどねェ、全く、昔から甘えん坊なんだから……グロリアにはここまで情けない姿を見せないと思うとまあ役得で良いのかな」
「だい」
「んー?」
「ハンカチちょうだいっ!」
「今更っ?!」
赤く染まったお鼻にハンカチを添える、ちーん、何とも豪快な音を聞きながら再度の溜息、グロリアの前で良い所を見せたいのはわかるけどダメダメな部分を全て私にさらして甘えて来るキョウ。
愛しいと思う反面でもう少し厳しく躾けた方が良いのかなとも思う、それが私自身に出来れば一番なのだけどどうやら向いていない、キョウが甘えれば甘えて来る分幸せを感じてしまう、どうしようも無い仕様。
「じゅびびびびびび」
「ゆっくりしなさい」
「ふぅ………泣いて無いからなっ」
「はいはい、どうする訓練続ける?」
「………ハンカチが足りなくなるから止める」
「ま、また泣くつもりじゃないのォ……んふふ、弱虫」
「んな、失礼な、強い虫だぜ」
「虫は虫だよォ」
全く、困った子。
大好き。
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