第355話・『吸えと言っても吸わないのでもやもや』

キョウさんがコロコロと姿を変化させる事は知っている、しかしどれもこれも美しい少女の姿をしている、今回も同じようなパターンなのだが原因がわからずに項垂れる。


何よりその姿を『自分の姿』と認識しているので前の姿に戻って下さいと首にしても小首を傾げて不思議そうにこちらを見るだけ、いや、まあ、キョウさんがそれでいいなら良いのですけど。


例の許可も下りて明日にでも行きましょうかと思ったらコレだ、少しでも目を離すと何をするかわかったもんじゃないですね、ベッドに転がっているキョウさんを見て溜息を吐き出す、どうしたものでしょう。


どうしようもないですね。


「愛らしいお姿」


「おぉ、いつも通り可愛いだろ、いつも通り可愛い俺に興奮でもすれば良いのさ、グロリア」


「……今日はやめときましょうかね」


「『キョウ』は止める気ねぇのに、つれねーの、けっ」


鴉(からす)の濡羽色(ぬればいろ)の美しい髪を揺らしながらキョウさんは舌打ちをする……肌は白でも黒でも無い中庸の色をしている、シスターのソレでは無いキョウさん、少しだけ黒髪に憧れがあるのでつい見入ってしまう。


瞳の色は夜の帳を思わせる底無しの黒色、一切の光を映さない黒色は世界の淵のように絶望的だ、全てを飲み込むようで全てを包み込むようで若干恐怖のようなモノを覚える、不思議ですね。


上衣とスカートが一体化した独特の形状の薄緑色のローブを震わせて伸びをするキョウさん、しかしこの姿は一体……襲われたとか言ってましたが、遺品は全て目を通した、大体の目星はつく、しかしこの変化の方に戸惑いを感じてしまう。


「ドラゴン明日見れるかなぁ」


舌足らずの声は幼女のソレだ、人間だと10歳ぐらいですかね、そもそも人間の姿をしているからといってキョウさんが取り込んだ存在の姿、人間だと断言するには早い様な気がする、ふむ、しかし小さくて柔らかそうな……椅子に腰かけて観察する。


キョウさんが存在を忘れる程に古い一部、私が計画的に取り込ませた彼女たちとは違いますね、そもそもエルフライダーの能力が何時から発現していたのかわかりませんし、しかし幼い少女の姿だが遺伝子に訴えかけるレベルの威圧感がある。


私がここまで他者に威圧感を感じる事がそもそも珍しい、これは相当の力が……しかしそれがこうも身勝手にキョウさんに使われている事実に喜びを覚えてしまう、ざまぁみろとは言いませんがね、強者を支配するキョウさんについつい喜びを感じる。


「おいでキョウさん」


「忙しいので、エッチもしないのに俺を呼びつけないでくれ」


足をバタバタと上下させながらベッドの上を泳ぐキョウさん……その言葉に甘えても良いのだがやっぱり何時ものキョウさんの体を楽しみたいので折角の誘いを受け流す、ぷくぅと頬を膨らませるキョウさんを無視する、変に甘やかすと一気に形勢が逆転される。


だけれど意思も無くこの姿になったって事はキョウさんにとって特別な存在なのだろうと邪推する、しかし今やこうやって姿を使われる側の存在だ、もうキョウさんの特別では無い、キョウさん自身に成り下がった存在に嫉妬するはずが無い、そのはずなのに。


「ままなりませんねェ」


「ママなりません?……グロリアのママは授乳が大変そうだぜ」


「耳が腐りましたかキョウさん」


「おいで、乳を吸わしちゃる、ママになっちゃる」


「忙しいので、エッチもする気が無いのに呼ばないで下さい」


「赤ちゃんプレイなのにっ!?……ん?今の台詞何処かで」


「おバカさん」


しかし現状ではどうしようも無いのですが……成程、純血のドラゴンと人工品のシスターの出会いを邪魔しようとするのはわかります、キョウさんは既にシスターの姿を捨てていますが私は姿をコロコロと変化させる事は出来ませんし。


「ドラゴン楽しみだなー」


「そうですねェ」


しかし無意識で最も求めている姿であれば一部の基準としては十分です。


性能を見たいですねェ。

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