第353話・『灰色のわしゃわしゃしたアレのソレのコレ』
チラチラと横目で観察する、何処からどう見ても可愛い、何処からどう見ても正義っ。
自分の愛娘を愛でつつも現状を纏める、成程なぁ、他人の視線が辛くて儂を召喚したのか、成程成程、妙な所で繊細な所は儂に似ている。
自分と愛娘に共通する部分がある事についつい微笑んでしまう、訝しそうにこちらを見るキョウの視線を受け止める、胸を張りつつ歩く。
意外そうな顔をしてそれに続くキョウ、どうもこの子は自分に自信があるようで心の奥の奥では小さく縮こまっている、過去に失った者たちの怨嗟が今でもキョウを狂わせる。
どうしたものかと溜息を吐き出す、我が子を一人前にするのは親の役目だ、そして儂にはこの子しかいない、この子には数多くいる母の一人かもしれぬがそのような事は些細な問題だ。
潮風を感じながら尻尾を大きく振る、周囲の視線を感じながら亜人に対する差別は無いようだと認識する、潮の満ち引きによって海水の流れがある時に吹く風の中でも海から陸に向かって吹くモノを潮風と呼ぶのだがここのものはやや品が無い。
髪が乱れるなぁと心の内で呟く、愛娘の癖っ毛は風に負け無いようで綿飴のようにポヨポヨと震えている。
「自然を大切に……か、やるせないのぅ」
「灰色狐っ、尻尾振り過ぎると目立つからやめてくんない」
「疑似餌じゃ」
「………灰色チョウチンアンコウ」
「嘘じゃ」
「………嘘つき灰色チョウチンアンコウ」
「ゆ、許してくれんかァ」
しかし少し笑顔が戻った、キョウと手を繋ぎながら海沿いを歩く、あのシスターの用事が終わるまで暇じゃろうし、しかし見れば見る程に歪な場所じゃな、キョウもそれを感じ取っているのか視線がややキツイ。
遠視して周囲の状況を確認する、潮風の影響によって海水が吹き上げられて波飛沫となる、それがやがて内陸部の奥深くまで運ばれて塩害(えんがい)を起こすのは珍しい事では無い、この街の周囲もその向こうも塩害にさらされている。
しかし普通であれば防潮林(ぼうちょうりん)などでその被害を最小にするのだがそのようなモノは何処にも無い、この場所の自然を崇拝する事で他所からの樹木は植えられないのかのゥ、とても愚かな事だ、文明を無視するかのような異様。
「ふむふむ、気持ちの悪い街じゃ」
「フナムシーー♪」
「待てキョウ、流石にフナムシで話題をぶった切られると儂も泣くぞ」
「灰色フナムシ」
「まてぃ!?」
「いや、フナムシって灰色だなぁって思っただけだけど……何か問題でも?」
「い、いや、そうか、それなら良いのじゃ」
「フナムシは死肉を漁る卑しい生き物……」
「…………」
愛娘が親いじめを覚えて辛い、しかし儂を呼んだのも納得じゃ、こうやって周囲の状況を把握するのは得意じゃからな、繋いだ腕を通して情報を与えるとキョウが目を瞬かせる。
驚いたような意外な事に遭遇したような微妙な表情だ、これまた珍しい表情に何故か儂の方が狼狽える………何か粗相があったかと情報を整理するがソレも見当たら無い、えっと、じゃ。
「別に灰色狐を使う為に呼んだんじゃねぇぜ、会いたいから呼んだんだぜ?」
「うあ」
「会いたいから、だけなんだけど………」
「うぁあああああああああああ、キョウ、好きじゃあああああああああああああ」
「どわぁ、せ、せめて鼻水を拭いてから抱き付こうぜ?!」
愛の突進、キョウは狼狽えながらもしっかりと抱きとめてくれる。
ふに、胸の感触が……油断ならんぞ。
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