閑話178・『家宝がザクザク、ざくざく』

レクルタンは異常な程に俺に甘い、多くいる母親の中でもダントツだ。


灰色狐も甘やかせてくれるが甘える方が多い様な気がする、一部によって多種多様だ。


ベッドの上で膝枕をしてくれるレクルタン、柔らかくて張りのある太ももだが子供の体温だ、ややあつい。


「汗が出る、俺の汗がレクルタンの股間に吸い込まれる」


「暴れると危ないデス」


「暴れてるつーか生理現象なんだけどさ」


「せい、り?…………レクルタンの可愛い赤ちゃんにまだ子供は早いのデス」


「いや、うん、そうじゃなくてだな………」


「大きい垢があるデス」


「うっ、恥ずかしいぜ」


このマイペースに巻き込まれると上手に意思の疎通が……似た者親子と言えば良いのか?窓から差し込む夕暮れのオレンジ色、何処か哀愁を誘うようで苦手だ、故郷に帰りたいわけでは無い。


この街に訪れる道中でレクルタンがかつての部下を差し出してくれた、そこそこ高位の魔物だった、一部では無く餌にした………そいつとはちゃんと意思の疎通が出来た、死にたくないともがいていた、俺はそれを理解出来た。


おかしいの、身内の心の内が理解出来ずに餌の心の内が理解出来る何てな、強制的に読み取ればレクルタンの思考を追えるがそれはしない、それって家族っぽくないように思える、俺の考え過ぎだと思うけどさ。


「大きい垢デス、やったデス」


満面の笑みで俺に垢を見せて来るレクルタン、耳かきの先端にあるソレを見てどのように答えたら良いのかと思考する、そもそも自分の耳垢なんて見たくねーし、女の子だし、美少女だもん、あっ、脱線したぜ。


「み、見たくねーよ、汚いし」


「はふ、赤ちゃんも成長しているのデス」


「ちょっと、俺の耳垢を見詰めながら成長を喜ぶのは止めてくれっ、せめてほら、もっとあるだろ、胸とかっ」


「む、ね?」


「………ほらっ」


「無いデスよ、赤ちゃんだから無くても当たり前なのデス」


「うぁぁ」


絶望的な一言に絶望する、どうあがいても絶望、ぐ、グロリアと比較する事で何とか確立していた自立心が崩壊する、レクルタンに悪気は無いのだろう、俺の胸より耳垢の大きさで成長の喜びを実感しているしっ、どんな実感っ。


「す、捨ててくれよな」


「家宝デス」


「耳垢デスぜ」


僅かな黄色が溶け込んだ白色の髪、卯の花色(うのはないろ)のソレは清廉で清潔で清純だ、人々に愛される色、耳垢を見詰めながら喜んでいる母親に溜息を吐き出す、きたねぇ、しかし本人が幸せそうなのだから何も言えない。


空木(うつぎ)の木に小さく咲く初夏を告げる可愛らしい花の名を冠した色、卯の花は雪見草とも呼ばれている………小さな花が健気に咲き誇る様が雪のように美しいからだ、しかし空木とはまた笑える、枝の内部が空洞である事からその名を与えられた。


何も無かった彼女は今では『俺』で埋め尽くされている。


「もっと掘り起こして家宝を増やすデス、はふはふ」


「妙な興奮は止めてくれっ、そして掘り起こされるのは耳垢だぜ」


卯の花色の髪の上には同じ色合いのウサギの耳が生えている、それが嬉しそうにピコピコと左右に揺れる、レクルタンの耳は可愛いなァ、銀朱(ぎんしゅ)の瞳は全てを見透かすように穏やかだ、朱丹に水銀と硫黄を丁寧に混ぜ合わせてソレを焼いて製造すればこの色合いになる。


綺麗で艶やかな瞳が一心に耳垢を見詰めている、うぁあ。


「捨ててって、ソレ、汚いから」


「ん?…………………ん?」


「疑問から疑問しか導き出せてねぇぜ!?」


耳垢はその後どうしたのか怖いので聞かなかった。

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