閑話176・『ゲロけろゲロけろ』
涼しげな青い湖面、その周りを囲むような小さな建物が幾つも並んでいる、風光明媚な街、自然と人工が仲良く調和している。
俺の精神状態によって時折ぶっ壊れる世界だが基本は安定している、ここにも一部って呼べるんだよな?ざーざーざーざー、雨?いや、耳鳴り?確かキクタと、灰色狐と、ざーざーざー。雨音は、晴れなのに。
えっと、呼べないんだっけ、でもキョウと二人っきりも良いけど愛しの一部達とも触れ合いたいと思うのは当然の事だろ?ちなみにキョウは俺の背中に張り付いて引きずられている、二日間会わなかっただけなのにこれだ。
首に回された細く華奢な腕から甘ったるい匂いがする、人の脳味噌をトロトロに蕩けさせる魔性の匂いだ、だけど俺には通用しない、こいつの匂いは俺の匂い、性的に感じる事は無い、だけど何だかドキドキする、むぅ。
くっ付き虫と化したキョウは柔らかい肌と温かい体温、そして甘ったるい匂いを俺に与えながらも離れる気配が無い、何を喋っても口をモゴモゴさせて背中に張り付いているだけで会話にならない、怒ってるつーよりは甘えてる?
「あちぃ」
「…………」
「背中に張り付いた生き物のせいであちぃ」
「……………………」
「背中に張り付いた生き物が相手してくれないせいで暇ァ」
「…………………………………………チッ」
「舌打ちとは行儀がよろしくねぇーぜ」
街中を歩きながら溜息を吐き出す、一度停止、振り払うようにして体を震わすと良い感じに首に腕が絡み付いて締め付けて来る、オヴォ、軽く白目になりながら吐瀉しつつ蹲る、美少女でも吐くモノは吐く、あっ、現実世界で食べた献立。
おろおろおろー、ぴしゃぴしゃぴしゃ、俺とキョウしかいない世界なので他人様の心配をする必要は無いのだが軒先に吐き捨てられたそれを見て目を瞬かせる、露骨に顔を歪めながらこっちを見て来る、拘束は解かれた、しかしゲロも吐いた。
「うわぁ」
「けほっ、んだよォ、お前のせいだぜ、おろおろ、ふぅ………スッキリ!」
「大丈夫、キョウが吐瀉物を吐いても愛せる自信があるよォ、キョウが吐瀉物でも愛せる自信があるよォ、んふふ」
「前者と後者だと意味違くね?え、俺ってゲロなの?ねえ?」
「土で隠しとこう、エチケット」
「エッチケット?!エッチゲット?!俺のゲロはエロいのか?!ゲロなのかエロなのかはっきりしろっ!」
「もぉー、元気だなァ」
キョウは俺自身なので辛辣だろうが何だろうが構ってくれる、グロリアだと無言で殴って来るからな、それ以外だと罵りながら殴って来るからなっ。
無言だろうが言葉を重ねようが暴力に訴える姿勢はちょっとな…………しかしやっと喋ってくれた、青々と広がる空に向けて伸びをしながらキョウが軽やかに笑う。
粘着的な笑顔をする事も多いがこうやって素直に笑う事も出来るんだよなァ、ゴシック、ルネッサンス、バロック、様々な様式が混ざり合った不思議な街の中で彼女は何よりも不思議な存在だ。
俺自身なのに。
「グロリアにばっか構ってたから不貞腐れてたのか、ヤキモチは焼き過ぎると焦げて苦くなるぜ」
「既に焦げ焦げだよォ」
「どんぐらい?」
「揮発性の低い固体の炭素分が割と残るぐらいだよォ」
「………炭化してるじゃねーか」
甘やかし過ぎは良く無いがここまで想ってくれるのは純粋に嬉しい、両手をバッと広げる、そして首を傾げられるっっ、わかれよ。
「なにかな」
「抱き締める流れじゃね?!」
「…………や、吐いたばっかりのキョウにソレは、ね」
「愛せるんじゃねーのかよ!?ふ、ふん、もうしらん」
立ち去ろうとすると背中にキョウが飛び込んでくる、首がグギッと奇妙な音を鳴らす、うぎぎぎぎぎぎぎぎぎ。
「前は駄目だけど後ろはOKだよねェ」
「え、エロい」
「……もう、そーゆーんじゃないからね!」
「はいはい、ぐぇ」
もう一回吐いた。
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