第352話・『狐はこうしてああしてどーん』

保護されている竜種に会う為には様々な手続きが必要らしくグロリアがソレを行ってくれている。


一日あれば十分ですと言っていたが俺はその間に何をすれば良いのだろう?宿の予約も済んでいるし消耗品の補充も終わった。


海沿いの街は人工物のようで人工物では無い、この海を保護する為になるべく『文明』を持ち込まないようにしている、石を積み上げただけの建物が並ぶ。


ここ等辺は地震も無いしコレで十分といえば十分なのだろう、気候風土を考えれば少し違和感があるがこの土地柄がそうさせているのだと自分を納得させる。


湿度あって太陽の出ている時間も多い、このような土地では建具を外せば風が通り抜ける構造にするのが一般的だ、そして大きな屋根に萱や瓦を用いる事で断熱性を高めるのだ。


冬場は建物の中で囲炉裏や火鉢で炭火を使用して暖房や調理に用いる、その為に木造で隙間だらけの方が換気が出来て住みやすいのだ、だけどこの街の建物は気候に反するように石造りなのだ。


「まあ、ご自由にどうぞとしか言えないわなァ、しかし暑いな、日焼けをするのはごめんだぜ」


伸びをしながら街中を探索する、どうも宗教臭いというか胡散臭いというか、この街に住む人間の多くはここに昔から住んでいたのでは無く自然保護の一環として移り住んで来た研究職の人間が大半だ。


その家族が商いをしているのだろうが話し掛けても会話が弾まない、口から出るのはこの土地の素晴らしさを伝える内容だけでどうにも実感が籠っていないように思える、まるで自然を崇拝する信者だ。


それでも昔からこの土地に住んで来た僅かばかりの住民もいる、彼等は新参者達の悪口を言わずに昔からの生活を今も静かに続けている、どうしてそんな事がわかるのかといえば彼等の多くは体に独特の入れ墨をしている。


宗教観の薄い動物を描いたモノが多い、ここに昔から住んでいる人達は何事にも縛られずに他人に干渉しないようだ、だからこそ新参者を受け入れて何の衝突も無く静かに暮らしている、そして入れ墨以外にももう一つ彼らを見分ける方法がある。


昔からここに住まう住民の多くは土地に根差したモノを加工して販売している、しかし新参者の多くはこの土地に全く関係の無い装飾品やら骨董品やらを店先で遊ばせている、うーん、自然大好き過ぎて土地のモノを扱え無いのか?……何食べてるんだろう。


「寒気がして来た、ここの土地怖い、凄く怖い………みんなジロジロ見るし、そりゃシスターは人工物ですけどもねっ」


店先を覗いていたら入れ墨をした恰幅の良いおばちゃんが干しイカをくれた、こんなに肌が白くてフワフワした生き物を見たのは初めてだからと褒められているのか珍生物扱いされているのかわからない事を言われた、まあ、おばちゃんの笑顔が愛くるしかったからどうでもいいや。


この土地を管理している団体はこの大陸中に支部を持つらしい、国境やら何やらを越えて同じ思想を持つ人間の協力やら何やらで組織を維持しているとか、ほぼ『何やら』で済ませてしまうのは俺がこの団体に興味が無いからだろう、辺境の地で『自然』を食い漁って生きて来た俺には綺麗事に思える。


干しイカを齧っているとお酒が欲しくなる、ひそひそひそ、俺の姿を見ると入れ墨をしていない新参者達が何やらひそひそ話を……グロリア、この土地がどーゆー所か知っていて俺を放置しやがったな、まあ、トラブルに巻き込まれたら本気で暴れちゃうけどな。


「うわぁ、視線つらっ……シスターで何が悪いんだ畜生、どうせ人工生物だぜ、くっくっくっ」


人工生物として迫害されているのか被害妄想かわからないが視線は痛い、白い肌に容赦無く降り注ぐ太陽の光よりも舐めるように見詰める他者の視線の方が圧倒的に痛い、あまりにジロジロ見られるので避けるようにして大通りを外れる。


石造りの建物で構成された街は何処からどう見ても『エコ』なのにここに移り住んだ自然崇拝者の『エゴ』が垣間見えるような気がして好きになれない、ここなら誰も見ていないか?空中に手早く『陣』を描いて身内を召喚する、そう、今の俺に必要なのは身内っ。


見慣れない南国の樹木に背を預けながら意識を集中させる、うむむ、しかし俺が知らない樹木となっ?!……後でグロリアに聞いて見よう、もしくは祟木にっ、この二人に聞けば大体の事はわかるしな、頼りになるぜ。


「灰色狐」


「ん、おおっ、え……?」


「あん?」


「……き、キョウが……自ら……え、儂を………え?」


「ああん?」


「しかも母親に興奮して性的に喘いでおるわっ!」


「……言語って難しいぜ、舐めた態度してたから睨んでただけだぜ」


「しかも舐めるじゃとっっ、狐の愛情表現っっ、さあ、来いっ、愛しい我が子っっ」


ウザかったので足払いして横腹を蹴飛ばして頭を踏んづけた。


「し、幸せじゃあ」


幸せだそうだ。

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