第351話・『友達は消えた、海は消えない』

何処までも広がる青々とした海……砂漠が死を連想させる場所なら海は生を実感させる、どちらも自然的な驚異を内包しているのは同じなのに。


友達を得たはずなのに何かを失ったかのような喪失感が何故かずっと胸の内で疼いている、勝手に体が何かをしたようなおかしな感覚、触手が勝手に伸びたかのような奇妙な感覚、感覚感覚感覚……あの子とはまた会える、行き先も教えたし。


生物が生み出す単一に見える奇怪な構造物、小さな珊瑚やポリプ等の有機体が密集している、それらが身を寄り添うようにして数十億集まって構成している珊瑚礁は見る者を圧倒する、この暗礁は生物の多様性を保つ為の重要な役目を持っているらしい。


「友達……って、人肉を旅先に送ってくれる人の事じゃねぇよな」


「キョウさん、黄昏ていると海に魅入られますよ」


「水着の姉ちゃんいねぇなぁ」


「…………ご自分で水着を着て水面を覗けばよろしいかと」


「それじゃあ悲しくなるだけだぜっ」


「思ったより元気そうですね、ほらほら、行きますよ」


「イキますよ、か」


「それとも逝きますか?」


こわっ、暗礁の大半の部分は厳しく規制されていてる、漁業や観光など人間による周囲の影響を制限しているらしい、俺からすれば食料の宝庫にしか見えないがその考え自体がこの場所では厳しく規制されているらしい、お腹減った。


友達は食えなかったし、食えなかったけどおかしくなったし、寂しい様な寂しく無い様な奇妙な感覚、俺はエルフライダーの力を行使しなかった、しかし彼女は大きく変化した、食料を送ってくれると約束してくれた……嬉しい事なのに無性に悲しい。


この完全に管理された生態系、それに打撃を与えるような環境変化は許さない姿勢で浜辺に鎧を着込んだ兵士が常駐している、そうか、周囲に魔物の気配が無いのがこの違和感の正体か……魔王が生み出す生物は人工的なモノ、この場所には相応しく無い。


だとすれば人工的な生き物の極みにあるシスターってどうなんだろうか?さらに言えば混ざり物である俺は?


「しかしどうしてこんな綺麗な場所に立ち寄る必要があったんだ」


「……キョウさんはドラゴンライダーになりたいんでしょう?」


「おう」


「ドラゴンも魔王が生み出した存在と元々この世界で生活している二種にわかれます、まあ、これはサービスですねェ……何だか落ち込んでいるようですし」


「俺が……落ち込んでる?」


「――――♪」


「ちょっ、グロリア、待ってくれよ!」


「ふふっ、そうやってトコトコと私の後を追って来る姿はまるで妹のようですね」


「妹じゃねーし!グロリアの恋人だしっ!」


「あはは」


表面流出や気象変動、自然の驚異によって珊瑚の白化現象は止められない、しかしそれを最小限で食い止める努力は出来る、近年ではヒトデの異常繁殖で大打撃を受けたらしい……ここを管理する人間からしたら魔物もヒトデも変わら無いんだろうな。


砂浜を歩きながら祟木やササの知識を読み込む、幾つもの島が珊瑚を囲むように展開している、そこには人工的な橋があるのだが大きな丸太を繋げたようなもので海水に耐えられるようなものには見えない、恐らく魔法か何かで処理をされているはずだが距離があってわからない。


この地域では遥か過去に活発な火山活動や玄武岩流が続いたらしい、そして花崗岩が露出した事によってこのように幾つもの島が誕生した、やがて構造盆地が形成されるとそこに珊瑚が増加してこのような珊瑚海になった。


「お、落ち込んでねぇけどさ、つまりはドラゴンを見せてくれるのか?!」


「――――♪」


「こ、答えろよグロリアっ!」


「――――♪」


「ペチャパイ!」


「私の掌はキョウさんの胸を大きくする事も出来ますがより強く揉む事で胸を『圧縮』して減らす事も出来ますよ」


「ぺ、ぺちゃ」


ぺ、ぺちゃぱいにされる……胸をぺちゃぺちゃにされるっ。


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