第348話・『おともだちおもい』
街の中を歩きながら胸に手を触れる、キョウもグロリアも認めてくれた、友達を作る事を認めてくれた。
グロリアは何処か無理をしているようで、キョウは何処か浅ましい感じがした、前者は俺の事を想って、後者はこれからの事を企んで。
だけどどちらにせよ後押しになったのは間違いない、と、友達、ほぼ初めてのその響きに動揺を隠せない、グロリアやキョウとの関係ともまた違う。
どきどき、胸に触れた掌に鼓動が伝わる、何時もよりも激しく刻まれるソレは俺が動揺している証だ、友達、何だか普通の人間に戻れたような気がして嬉しくなる。
でも友達って何をすれば良いんだろう?ううん、キスも駄目だろうし、えっちも駄目だろうし、一部にするのも無しだ、グロリアのような関係とも一部のような関係とも違う。
どきどきどき、はふ、息を吐き出すと周囲の人間が驚いたような顔で俺を見る……みんな顔を真っ赤にしてどうしたのだろう、風邪じゃ無いか不安になる、大丈夫かな?
この人達にも当然いるのだろう………友達って特別でも何でも無い存在がいるのだろう、だけど俺にはいない、幼い時からドラゴンライダーになる為に修行して他者に対して壁を作っていた。
そして何よりも怖がっていた、親しくなった誰かが俺の近くからいなくなる事を心底怖がっていた、結局は単純な話だ、俺が何処までも臆病なだけ、グロリアの庇護下にあれば、キョウの庇護下にあれば。
そこを断ち切る勇気が必要だ、そもそも魔物使いのあの娘は自分を捕食しに来た相手に『友達になってくれ』と勇気を振り絞って言ったのだ、そこにどれだけの勇気を必要としただろう、相手の事をもっと考えろ。
「……凄い、凄いなあの娘」
俺とは違って男前だ、自分を捕食しようとしている相手に良くそのような想いを抱いたな、エルフだからかな?エルフの血を僅かに感じたけど、それは現状ではどうでも良い事だ、街中の生活音が心地よく耳に入る。
魔物を販売していた場所は覚えている……そしてあの美しい魔物使いの事も覚えている、美味しそうだった、噛み砕くはずだった、なのにあの一言で『ご飯』では無くなった、それが不思議で不思議で考えても考えても答えは出ない。
エルフの血が入ってるんだぞ?
「それなのに、お腹もぐるるるる言わない」
エルフは全て食料のはずなのに不思議だ、エルフライダーとしての機能が何かに抑えられている、こんな事は初めてだ、ぺたぺた、自分の頬を両手て触れる、おかしな所は無いはずだ。
「どうしちまったんだ、俺、え、エルフだぞ、エルフの血が入ってるのに」
エルフライダーのスイッチが入らない、それを自分自身でコントロールしている事に自分自身で驚く、俺はそこまで『友達』を欲しているのか?それとも単純に彼女の真剣な言葉に圧倒されている?
友達になって欲しいか、何だか唇が自然と震える、嬉しいのか、嬉しく無いのか、中々に判断出来ない、だけど自然と足早になるし頬っぺたがポカポカする、これって嬉しいって感情?自分自身でもわからなくなる。
「ともだちに、なって」
何をすれば良いのだろう?そもそもここに長居は出来無い、でも彼女の波長を覚えてしまえば大体の位置は妖精の感知能力で掴める、あ、こ、これだと友達ってよりはストーカーのように思える。
き、嫌われるのは何だか嫌だ、まだ友達になっていないのに嫌われる云々を考えるっておかしいのか?だって、嫌われたら俺の近くからいなくなる、そうしない為に一部に、いちぶにするのは、だめ。
「ともだちは、いちぶじゃない」
一緒に遊んだり、ご飯食べたり、夢を語り合ったり。
だから勇気を振り絞れキョウ。
友達が欲しいんだろう。
キョウ。
「おれは、ちゃんと、いう」
友達になってくれって。
おれは、いちぶはもう。
ともだちがほしい。
みなとおなじように。
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