第347話・『どうせ』

グロリアに相談したようにキョウにも相談していた、絵本を読む作業を『自動化』しつつグロリアに気付かれないように内へと潜る。


湖畔の街と現実の世界の境目………何時でもあちらに戻れるようにしないと怪しまれる、暗い暗い闇の世界で一人の少女が佇んでいる、俺は闇の中で足を動かしながら接近する。


現実との境目にある世界は俺の存在を不安定にさせる、しかし少女に近寄れば近寄るほどに体が安定する、闇の向こうで幾つかの星が煌めいている、星?ここは俺の世界なのに?


「やっほー」


「っ、全部見ていたはずなのに何もアドバイスくれねーなんて酷いぜ、こうやって呼ぶ羽目になった」


「まあまあ、怒っても仕方無いよねェ、友達になろうと誘われたのはキョウで私じゃ無いし」


そこには一人の少女が佇んでいる、まだ子供と言っても良い年齢なのに妙な色気がある、その服装に見覚えがある、胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白、グロリアや俺と同じ修道服。


ベールの下から見える金糸と銀糸に塗れた美しい髪、遥か遠方の星の煌めきを反射する二重色、黄金と白銀がそれこそ夜空の星のように煌めいている、見る者を魅了するような美しい髪、やや癖ッ毛なのも『こいつ』だと可愛い。


瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、黄金と漆黒、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている、グロリアと同じ瞳だと思うと急に愛しさが込み上げる、わかりやすい自分自身に呆れる。


全体的に線が細くて儚げな少女、シスターである事は疑いようが無いがシスターの枠に収まるような個性でも無い、俺自身、彼女の姿を誰よりも良く知っている、そうか、俺ってこんなにも可愛いのか、自覚すると急に恥ずかしくなって来た。


キョウは腕を組みながらふふんと笑う。


「グロリアは……駄目だって言ったぜ、意地悪では無く、俺の事を色々考えたの事だろうと思う」


「ふーん、キョウはグロリアが大好きだよねェ」


クスクス、俺の頬に自分の頬を当てながらキョウが微笑む、粘度と糖度のある絡み付くような声、すべすべした頬の感触を楽しみつつその言葉に正直に頷く、だからこそ何か不安がある時はグロリアに聞いて嫌われないように苦心する。


俺の体に纏わり付くようにくるくると円を描くキョウ、軽やかなステップで俺の周りを回る、ソレに対しては何も言わない、けどグロリアに先に相談した事が気に食わないのは何となくわかる。


「キョウは俺の中で見てるから説明は後で良いと思ったんだぜ」


「いやいや、そうじゃないでしょう、私が怒っていると勘違いしてるよね?」


「え、怒って無いの」


「良妻ですから」


ぷしゅー、鼻息が荒い、てっきり何時もの様に怒られて叱られて泣かされるか泣くかと思ったぜ、意地悪そうに『ふふっ』と笑うキョウ………これは本当に怒って無いぜ、女ってわからん……友達も浮気も一緒では無いのか?


もしかして俺って世間ズレしている?い、今までほぼ友達もいなかったし、人間じゃ無くて神様の子供だし、主食はエルフだし、自分では気付かないような明確な『ズレ』が存在しているのだろうか?何だか不安になって来た。


「友達、俺、そこそこ欲しい」


「控え目なのが現実味があって良いねェ、魔物使いの女の子かぁ」


「餌じゃ無くて友達候補だったぜ!それって凄くね?」


「凄く無い凄く無い、餌かどうかはキョウの心の持ちようでしょうに……それで?私にどうしろって?んふふ」


蜂蜜のような声は人を惑わし脳味噌をシロップ漬けにする代物だ、だけど俺自身には通用しない、しかしキョウの声って本当に甘ったるいよなァ、男女関わらずに他者を支配するようなそんな怪しさがある。


う、胡散臭い。


「じーっ」


「その視線は普通に傷付くから止めてねェ」


「す、すまん……キョウは俺に友達が出来る事は賛成?反対?」


「へえ」


「え?」


「……ううん、何でも無いよ、賛成だよ?キョウもそっちの方が『嬉しい』でしょう?」


「お、おう」


「そうそう、もし友達になったら私とも会わせてよね、ちゃんと切り替わって」


「勿論だぜ!ありがとう!」


「ふふっ、そんなに喜ばないで良いのに、どうせ」


「それじゃあ会いに行ってくる!……何か最後に言った?」


言って無いよ。


キョウはそう言って微笑んだ。

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