第346話・『貴方が幸せなら友達の一人や二人……ぐはぁ』
どれだけ高価なモノを買い与えても、どれだけベッドの上で愛を囁こうとも、私は『拒絶する者』でキョウさんは『受け入れる人』なのだ。
心のあり方としては極端な所は同じだと思う、私は全てを拒絶する事で様々なものを得た、他人を信用しないし、自分も信用しない………俯瞰でしか物事を判断出来ない。
しかしキョウさんは違う、エルフライダーの能力に隠れがちだがそもそもキョウさん自身が特殊な精神構造をしている……私と外の世界に飛び出したのもソレが原因だ。
他人をすぐに信用して尻尾を振る、そしてその愛くるしさで相手を何時の間にか手中に収める、まるで詐欺師だ、しかも自覚の無い詐欺師、私は自分が腹黒いと自覚しているだけマシですかね。
だけど関係性を求めるとそこは大幅に変わる、人に懐いて飛び込む過程が恐ろしく短いので関係性がすぐに完結してしまう、つまりは友人では無く親友、他人では無く一部、仲間では無く彼女。
一歩踏み込んだ関係にはすぐになれるのにその間が欠落している、だからこそまともな知人など出来るはずも無く、私や一部に傾倒する、それは悲しい現実だが私にとっては嬉しい誤算だ、私だけを見てれば良い。
一部の皆さんはどれだけ足掻いてもキョウさんの一部ですし、女性寄りのキョウさんも……いや、彼女は油断できないような気がする、何せ私を嫌うようにキョウさんを洗脳した過去がある、まるで私のようだ、そのやり口。
同族嫌悪なのでしょうか?しかし驚いた、キョウさんに友達、コレは浮気よりも割と衝撃的な出来事で胸が不安で一杯になる、友達、私にもいますよ、あちらがそう思っているだけで私は何も思ってませんが、客観的に見れば友達でしょう。
シスターは製造されて同期で長い時間を過ごすからそれはそうでしょうと自分で納得する、けど心では認めていない、私の心に土足で上がる事が出来るのはキョウさんだけだ、今は部屋の隅で買い与えた服を着て買い与えた絵本を読んでいる。
一日だけのデート、宿に戻って作業に戻る、だけどキョウさんは瞳から光を失って絵本を黙々と読み進めている。
「――――――――――――――」
「………」
無言は窮屈では無い、しかしキョウさんの気持ちを考えると些か複雑でもある、単純に嫉妬からキョウさんに『友達』を禁じたのでは無い、キョウさんは結局は私と同じで世間の『規格』から大きく逸脱した存在。
誰かと深く関われば関わる程にその出生と正体を疑われる、この大陸を支配する神の実子ですからねェ、それでいて凶暴でエルフや人間を捕食する化け物、何処からどう見ても好意的に捉えるのは難しいでしょう。
エルフライダーの能力によって暴走しているキョウさんを愛せる存在が『一般人』の中にいるのかと問われたらやはり疑問が残る、故に友など必要無い、キョウさんの正体を探る為だけの獣に成り下がるに決まっている。
これは過保護では無く保護だ、純粋に。
「言いたい事があるのなら言いなさい」
「………」
「友達は欲しいのですか?今更?」
「わかんない」
感情の無い声だ、真面目に相談したのにモノで誤魔化そうとしたのは良く無かったですかね、キョウさんに物欲はあまりありませんし、それよりも私がキョウさんの言葉を聞き流して買い物に付き合わせたことにショックを受けている。
女では無く子供………彼女として相談に応じるよりは保護者として応じるべきでしたね、しかしどうしたものか…………どう考えても必要があるものには思えない、友達、リスクしか無い、それなのにキョウさんはソレを欲しがっている。
理解は出来無いが理解をしようと努力する事は出来る。
「はぁ………友達を作るのは駄目です」
「っ」
「と言いたいのですが、それが原因でキョウさんに嫌われるのはもっと駄目です」
「グロリア?」
「しかし自分の口から『どうぞどうぞ』と言えるほどに私も大人では無いのです、好きにしなさい」
「……グロリアが嫌がってるんだ、こ、断って来る」
立ち上がって部屋から飛び出そうとするキョウさん、その背中に優しく語り掛ける――――胸が痛むが、私の嫉妬は今は不必要だ。
「好きにしなさい、友達が欲しいのなら素直になりなさい」
「う、うぅ」
返事は弱々しいけどこれで良いのです。
貴方が幸せな方が嬉しいです。
胸が痛もうとも。
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