第344話・『餌と友達、餌友達』

じゅるるるるるるるるる、事態は一瞬で変化した、俺の足に固定されていたスライムが俺の中に吸い込まれる、ふふ、薄く笑いながらお母さんを置く、大切に、壊れないように。


敵は動揺しない、おかしいな、エルフライダーは捕食の生き物、捕食して自己を保つ、まあ、自我も無い様な低級の魔物では腹は膨らまないが仕方ねーべ、少しだけ頭がすっきりした。


そうだ、獲物を前にしたからだ、お母さんがちゃんと見ててくれる、麒麟は使わない、麒麟は俺とグロリアを離そうとしているからな、信用出来無いぜ、まあ、魔物の細胞を解き放って捕食するか。


跳ねるようにジャンプする、しかし低く低く肉薄する、地面が抉れて火花が散る、一気に接近する獲物の顔を見て頷く、美少女だ、美少女は美味しそうなので是非とも食べたい、よろしくお願いします。


ふふ。


「素晴らしい性能だね、これは……よいしょ」


「お?」


「でも殺されるわけには行かないし、君ともっとお話したいね」


弾丸のような速度で近付く俺から距離を取るかと思いきや一歩前進する魔物使い、相手からしたらたったの一歩だろうに、俺からしたら大きな大きな一歩のように思える、俺が一気に間合いを詰めるよりもさらに近付いたかのような錯覚。


使用人にしか見えないその姿が微かに震える、何かが全身に広がっている、掴もうとするとすり抜ける、まるでそこに何も無かったかのように、ずるるるるるるる、そして地面を高速で移動する『血のような』液体の姿に目を瞬かせる。


一瞬で体をスライムのように変化させて移動したのか?俺は俺の一部の魔物の力を自由に扱える、それと同様の事がこいつにも出来るのか?しかし避けるだけで攻撃する事はせずにある程度の距離を置いてから人型へと変化する、いや、元通りになる。


「危ないよね、君、久しぶりに死ぬかと思ったよね」


「死んどけ」


「ふふ、やだよ、君とお話がしたいんだよ……儘廼守(ままのす)……名前を教えて上げる」


「魔物使いの儘廼守(ままのす)ちゃん?」


「そ、そうだけどちゃん付けは止めて欲しいよね、こう見えても君より年上だと思うよ?魔物の年齢を当てるのも得意なんだよね」


「教えない、意地悪するから」


「意地悪はしていないよ、君とお友達になりたいんだよ」


「ひっ」


「え」


お友達、おれには、俺には一部も彼女も家族もいるけれどお友達はいない、どきどき、餌じゃないのか?お友達は餌では無い事ぐらい俺にもわかる、お母さんの方を見ると軽く手を振っている、自分で決めろって事だろうか?


こ、こんなにも重要な事を俺が決める、天幕の内の暗い世界で動揺する、あいつが魔物の力を自由自在に扱える事実よりもそっちに動揺する、きょろきょろきょろ、周囲を見回しても助けてくれる人はいない、お母さんは無視を決め込んでいる。


「ひぃいいいいい、お助けぇえええええええええ」


「こらこら、キョウ、嫌な事から逃げない」


「ま、儘廼守と友達になる事は嫌な事だね、そ、そうだよね……うん、大丈夫だよ、傷付いてはいないよ」


「お母さんっ!帰ろう!ご飯もいらない!」


「ご飯か友達か選びなさい」


問答無用、お母さんの言葉に視界が大きく乱れる、食事をしに来たはずなのにどうしてこんな事になっているのだろうか?俺とお友達になろうと口にするロリは微笑んでいる、何処か困ったように微笑んでいる、困っているのは俺なのにっ。


「お、お友達になって欲しいんだよね!」


「どうするのキョウ」


「ひぃい、ひ、は」


「……駄目ね、呼吸するのを忘れる程に混乱しているわ」


「ぁぁああああ、し、死んだら駄目だよ!友達になってから死んでよね!」


「こ、この娘も酷いわね」


い、意識が――――友達は食べれない、餌は食べれる。


えさとともだちがちがうよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る