第341話・『げろげろゆびゆび、おええ』
天幕の中心は奇妙な程に何も無い、首を傾げる、ぐるるるるるるるる、お腹も喉も鳴りっぱなし、その度に周囲の魔物達が怯えたような顔をする、人間を捕食する生き物が人間を怖がるの?
変なの、抱いているお母さんの温もりがとてもとても、うふふふ、幸せ、もう食べないよ!お母さんが用意してくれるって言ったから絶対に食べない、俺は良い娘だからちゃんとちゃんと、あはは。
くるくると回る、ダンスは好きだ、あまり得意では無いけれど、前にグロリアと踊った時は夢のような時間だった、周囲の拍手や声援にどう反応すれば良いのかわからなかったけどね、そうだそうだ、踊ろう♪
「こ、こらこらこら」
「?うえぇぇえええ」
「は、吐きそうになるまでクルクル回ってどうしたのよ、キョウは見ていて飽きないわ……お母さんに言ってごらん」
「おぇぇ」
「………アタシの愛する娘が美貌を崩壊させて吐瀉してるわ………ほら、お口拭いて上げる」
「うぷぷ……指の数は、えっと」
「お口拭いて上げるから吐瀉物をまじまじと観察しないっ!」
無駄に高そうなハンカチで口の周りを拭かれる、少し過激に踊り過ぎたようだ、反省する、反省しつつ周囲を見回る…………いる、魔物の気配が密集している、天幕の布は厚い、絶叫してもそこまで外には……ふふん♪
ひょっこり、何でも無いように檻の影から一人の少女が現れる、餌だァ、飛び掛かろうとしたら首に手を当てられて止められる、えさえさえさえさ、しかし母親は母親であると同時に俺の飼い主でもある、故に従う、くぅん。
鳴く、鳴く、お腹も鳴る、犬の声もする、あああああああああ、これは俺の声か、人間様に媚びる犬の声、魔物の母に媚びる俺の声、どちらにせよ媚びているのは同じだものな、ついついおかしくなって笑ってしまう、少女は俺を見て目を大きく見開く。
観察されている?俺が興奮しているように相手も興奮しているのがわかる、どうしてだろう、俺は餌を見付けて嬉しいけどこいつは何が嬉しいのだろうか、俺とお母さんを食い入るように見詰める、お母さんを隠す、隠す、かくす、背中を向ける。
「キョウ」
「お母さん、おかあさんみるな」
「嫉妬かしら、この反応は新鮮で嬉しいわ、っても背中向けて戦うわけにはいかんでしょ」
「せなかむけたまま」
「無理、前を向きなさい」
「うーあー」
「大丈夫、アタシは貴方のモノで貴方はアタシのモノよ、貴方を生み出した時にそう決めたもの、自信を持って前を向きなさい」
「おう」
「あら、急に前向きに……言動も前向きになって体も前を向くとは恐れ入るわ」
前開きで襟ぐりの深く短い袖なしのボディス、同様に襟を深く刳った青色のブラウス、踝までを覆うスカートとエプロン、召使いのような恰好をした幼女、めしつかい、飯、飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯、めし、えさ、めし。
見た目は10歳にも満たない、やわらかそう、きっとやわらかい、やわらかいと歯をあまり使わなくなるので骨はかたいほうがいいいい、でもこいつは骨も柔らかそう、いかさん、いかさんかな、どうして海では無く地上にいるのだろうか、俺に食われる為?
鮮やかな黄色の髪が揺れる、山野に自生する刈安と同じ色彩、そしてそれは同時に色彩の名前でもある、古代からススキの類は黄色染に使用されていた、その中でも刈安は特に愛された色彩だ、その名のように刈りやすく入手しやすかったため染物に多用された。
刈安の黄染料には赤みを含まないので緑色に染める時に使用すると藍との交染で鮮やかな緑色を生み出す事が出来る、黄染料としてでは無く香辛料として使えないだろうか、このお肉を美味しく食べる為の、んふふふふ、おいしそ、おいしそ、おいしそ♪
瞳は何処か丸みを帯びていて幼い印象だ、幼いしな、おさない、何処までも明るく華やかな赤橙のソレ、宝石の珊瑚の珠玉に生気を蓄えたような瞳、珊瑚珠色(さんごしゅいろ)の瞳、さんご、シーフード?ん???
「初めましてだね、高位の魔物さんと……新種の魔物さん」
「おれは、にんげんだ」
「と、本人言ってるわよ」
本人、ほんにんってだれだっけ。
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