第340話・『操られライダー』
警備の人間を眠らせるのは容易い、しかし人間って脆くて弱くて容易い、まあ、高位の魔物とエルフライダーを前にすればこんなものか。
巨大な天幕の中に足を運ぶ、どちらにせよだ、こんな状態になった俺はもうどうしようも無い、頭が最高にイカれているしお腹が最高に空いている、ぐるるるるる。
喉が鳴ったのかお腹が鳴ったのかそれは俺にもわからない、俺にわかるのは捕食したいって欲求だけだ、お、おかあさんが、お母さんが、ツツミノクサカが俺を導いてくれる。
天幕の中にも幾つか檻がある、ここの魔物はレアな奴ばかりだな、若干人型に近いのもいる、中の下って感じかな、でも食欲はそそられないなぁ、俺が爛々と目を光らせているのかどいつもこいつも目を背ける。
独特の獣臭は普通の動物も魔物も同じ、俺の一部である魔物達はみんな良い匂いがするのに不思議だぜ、ゆっくりと天幕の中を歩きながら獲物を探す、俺の腕の中にいるツツミノクサカは欠伸を噛み殺している。
上品に口元に手を当ててふぁーって感じ、可愛い、もう餌はこいつで良いような気がするが指をたっぷり食べたので許してやるか、それに折角ここまで来たのだ、『外食』をしたいぜ?ふふん、薄く薄く笑う、酷薄の笑み。
「いないいない、おれの」
「キョウの餌ね、わかってるわよ、誰も横取りしないから下品な物言いははお止めなさいな」
「うるさい、ころすぞ」
「はいはい、怖い怖い、アタシの娘は何時だって口が悪い、その癖に悪食だしね」
「………ぬくいぬくい」
「ほ、頬を擦り付けるなぁ、戦闘になるかもだし、落ち着きなさい」
「?」
「物凄い早さで落ち着いたわね、それもそれでムカつくわ」
「このまものたべていいー?」
「だぁめ、貴方に相応しく無いわ、魔物を捕食するならせめてアタシ並のにしなさい、お母さんと同じくらいのね」
「…………おなかへった」
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして、貴方の美味しい指は既に消化されてお腹もペッタンコなのにどうして意地悪を言うのだろうか、本当に意地悪で本当に悲しくて泣きそうになる。
美味しかった指は栄養になり糞尿になって無くなる、だからこうやって品が無いとわかっていておねだりしているのに食べたらダメって言う、凄く凄く意地悪だ、娘に対して物凄く厳しい、食べちゃうぞ、お前も食べちゃうぞ。
腕に抱えた温もりはお腹に入れたらポカポカしそうな丁度良い体温で、丁度良い塩梅で嬉しくなる、白い白い首に犬歯を突き刺して白い白い肌に白い白い犬歯を、白い白い、そしたら赤い赤いのが溢れて、おいしいおいしいになるのに、ああ、このロリめ。
月の光を連想させる薄い青色を含んだ白色の髪、月白(げっぱく)の色合いをしたその髪は天に漂う月のような美しさだ、見惚れる、歯で噛み千切れるかな?髪の毛も美味しそう、全部が美味しそう、どこもかしこも白くて美味しそう、赤いのも好き。
月が東の空に昇るの時に空がゆっくりと明るく白んでいく光景をも指す月白、そんな美しい髪をフレンチショートにしている、上品な印象を見る者に与える、前髪は斜めに流していて清潔感がある、無性に引き千切りたくなる衝動を抑える、ぐるるるる。
肌の色も同様に白いのだが頬の部分に奇妙な刻印がある、それが何を意味するのか俺にはわからない、瞳の色は薄い桜の花の色を連想させるソレだ、ほんのりと紅みを含んだ白色の瞳は見ていると心の底を覗かれているような不思議な気持ちになるんだ。
全てが儚い色合いで構成された少女、穏やかな顔付きは幼女であるのに何故か包み込まれるようなイメージ、ニッコリと笑っている、笑顔だ、出会ってからずっと笑顔、笑顔で俺に説教する不思議な存在、そして俺自身もソレを嫌だと思えない……どうして?
詰襟で横に深いスリットが入った独特の服装をしている、東方服のように思えるが少し違うようにも見える………旗袍、チャイナドレスとも呼ばれる東方の民族のものだ、食われる寸前なのに、わらうの、な。
「落ち着きなさい、食べても良いけどね」
「あぅ」
顎下を小さな掌で撫でられる事に興奮する、どうして興奮するのだろう、食べる側と餌なのに、母と娘なのに、どっちにしろおかしいと思う。
どっちにしろ、幸せぇ、へう、撫でてぇ。
「くぅん」
「くんくん、こっちから魔物が『奇妙』に密集した匂いがする……行きましょう、貴方に素敵なご飯を食べさせたいの、お母さんの我儘を聞いてくれる?」
「う、うん、おれ、いいこだから、きくぅ」
「そう、嬉しいわ」
おれはもっとうれしいよ!
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