第339話・『フラグだぞ、それ、ダメな奴だぞ、将来的には良い奴だ』
園内の魔物が怯えている気配を感じて首を傾げる、魔物使いは魔物の気配を読み取る能力がある、疑問に首を傾げながら感知を広げる。
何処にもおかしな気配は無い、しかし何だか不思議な気配がある、この人間でも魔物でも無い人工臭い気配、シスターか?一度だけ見た事があるが相変わらずおかしな気配だ。
しかし同時に魔物のような気配も感じる、しかしこれは人間だ、人間で無かったらよっぽど高位の魔物が化けているとか、別におかしな事では無い、世界は何時もそうやって危険に満ちている。
関わりたくないな、ここの経営者に雇われて数年、魔物を調教するのは楽しい、世界には色々な魔物が存在している、一つずつ最適な飼育方法を見つける過程は本当に楽しい、だからずっとしていたい、ずっとずっとしていたい。
だからトラブルはごめんだ、天幕の中で呼吸を整える、魔物使いと言っても高位の魔物を扱えるわけでは無い、幅広く下位の魔物を支配して使役する事で高位の魔物にすら届く牙を生み出すのが自分の使命、影に身を潜める魔物達が蠢く。
しかしこれ程に巧妙に気配を隠すとは何者だ?二人の気配は何処までも濃厚で何処までも希薄、矛盾、自分のような魔物使いで無いとこの気配の違和感に気付かないだろう、園の者に忠告するか?バカな、戦闘でもするつもりか。
ここの経営者は何処までも貪欲だ、お金になる魔物の為なら何処にでも奔走して凄腕の冒険者に頼み込んで魔物を捕らえて貰う、お金お金お金、人間の世界は魔物の世界よりもよっぽど罪深い、困った、八方塞がりだ、本当に困った。
机の上に置いた小さな鏡に写った自分は何処までも困り顔だ、前開きで襟ぐりの深く短い袖なしのボディスは何時もと同じ、同様に襟を深く刳った青色のブラウス、踝までを覆うスカートとエプロン、何時もの召使いの恰好を見て溜息。
服装はどうでも良い、問題は幼いままの容姿だ、魔物を影に潜ませ続けた人生、それがどのようにこの身に影響したかはわからないが見た目は10歳にも満たない少女のものだ、成長しない、魔物とは魔王が生み出す神秘の生命体、やはり人間が扱うには無理があるのだろうか?
鮮やかな黄色の髪が揺れる、山野に自生する刈安と同じ色彩、そしてそれは同時に色彩の名前でもある、古代からススキの類は黄色染に使用されていた、その中でも刈安は特に愛された色彩だ、その名のように刈りやすく入手しやすかったため染物に多用された。
刈安の黄染料には赤みを含まないので緑色に染める時に使用すると藍との交染で鮮やかな緑色を生み出す事が出来る、昔は家の手伝いでそのような事もしたな、自分の髪の色と同じなのかおかしくて笑ったっけ、まさか魔物使いに職業を固定されるとは思わなかった。
じーっ、瞳は何処か丸みを帯びていて幼い印象を相手に持たせる、幼い姿なのだから仕方が無いけど何だか納得出来無い、何処までも明るく華やかな赤橙のソレ、宝石の珊瑚の珠玉に生気を蓄えたような瞳、あまり好きでは無い、他者から褒められる度に虫唾が走る。
珊瑚珠色(さんごしゅいろ)の瞳、薄気味の悪い瞳。
「どうしようも無いね、こればかりはね」
文字通り珊瑚の珠玉を連想させる赤々とした瞳、珊瑚朱(さんごしゅ)とも言われるその瞳、珊瑚の珠玉には幾つかの種類がある、『白、桃色、赤』の三種が存在しているのだがその中でも深く濃い赤色は血色(ちいろ)と言われて珍重されて来た。
このような血を連想させる色合いを珊瑚で誤魔化すとはおもしろおかしい、しかし不愉快………どうしてこの瞳がここまで嫌いなのか、自分自身できちんと理解している、くそったれの父親と同じ色合いをしているからだ、何一つ自分に与えずに全てを奪った存在。
「そしてまた奪われそうだね、どうしようかね」
奪うのは何者か???高位の魔物なのかシスターなのか、厄介事である事には違いない、どちらもあまり深く関わりたくない存在だ、逃げる準備を始めよう、使役する魔物は全て影に潜めているし、給料もつい先日貰ったばかりで未練も無い。
『ま、ますたー、逃げ出すのですか』
「心寝(こころね)、そうだね、その通りだね」
『……ぼ、ぼくも戦えるよ』
「戦っても目立つからね、それは駄目だよね………目立たず静かに魔物と生きたいだけだからね」
『……相手が魔物なら、ますたーの力で』
「どうだろね、ここまで危うい気配をした存在は初めてだからね、殺したり殺されたりするのはそもそも好きじゃないよね」
『ぼくだったら』
「むりむりー、わかるんだよね、これ、魔物の方もヤバいけどね、シスターの方が何倍もヤバい、そもそもシスターなのに魔物の気配を隠してるね、新手のキメラ?高位の魔物とシスターの?」
『うぅう』
「関わりになら無い方が良い事案ってのもあるもんだよね、さあ、逃亡しようかね」
逃げ切れたらの話だけどね。
両方とも手に入れたいけど、かなーり分が悪いよね。
「でも魔物とシスターのキメラっぽいのはどんな風に―――少しだけ見ようかね」
その少しで失敗するかの知れないけどね、魔物は大好きだから、人間は大嫌いだから。
新種の魔物がいるとわかると自分を制御出来ないよね。
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