閑話172・『鳥肌は美味しそう、でも人間の鳥肌はまずそう』

「グロリアに読んで貰うから別にいいよ、最近は難しい本も……んだよ、その顔」


湖畔の街、涼しげな青い湖面の周りを囲むような小さな建物が幾つも並んでいる、風光明媚な街、自然と人工が仲良く調和している。


その街の真ん中で俺はキョウにそう答える、何だか事務的っぽくなったけどわかってくれるよな?グロリアが買ってくれた絵本を先にキョウと読むのは道理がおかしいだろ?


何処までも広がる蒼い空と入道雲、なのに涼しい、冷涼な夏の光景、しかしキョウは何も答えずに俯いている、手にはグロリアに買って貰った絵本、仕組みはわからないがあちらの世界からこちらの世界に落とし込んだらしい。


読んでもいないモノをどうやって?色々と疑問はあるけどエルフライダーって化け物だしな、キョウは俺に絵本を読んであげると言った、どうしてだろう、俺が読んだ事のある絵本なら良いけどさ、それはグロリアが今度読んでくれると約束した絵本。


表紙を見て首を傾げる。


「キョウ、どうした?」


「…………最近はグロリアと絵本を楽しんでいるようですね」


「口調がおかしい、ちょっと待て」


「いいえ、待ちません」


怖いっっ、何時ものような砕けた口調で蜂蜜のような甘ったるい声で話し掛けてくれよ、頭を抱えて蹲る、ええい、落ち着け……殺される?どうしてだろう、それが自然な事のように思える、キョウは一体何を企んでいる?


そもそもどうして怒っているんだろうか?俺が絵本を読んでくれるってのを断ったから?ちらちら、蹲ったままキョウを見上げる、視線がつめたっ、暫く何処かに身を隠したい、周囲をゆっくりと見回す、この際だ、逃亡しよう。


カラフルな色彩と古びた木組みが実に合っている建物たち…………何処に逃げようかな……絶対零度の視線から今すぐに逃げ出したい、だけど疑問もある、キョウはここまで怒るのは珍しい、原因を考えよう、うーーん。


「もしかして嫉妬してるのか?俺とグロリアに」


「そうですけど何か?」


「うわぁ」


認めた上で睨んで来た、もはや恥ずかしさよりも嫉妬が上回っている、最近は色々と立て込んでいて湖畔の街に訪れる回数も少なくなったからな、何だかんだで俺の責任か??キョウは俺だ、俺は寂しがり屋だ、だからこそ全ての気持ちが理解出来る。


俺が、悪いのか?


「キョウ」


「はい?」


「その喋り方、無理してるぜ……そもそもお前が嫉妬しているグロリアみたいだ、顔も同じだし」


「う、うぐ」


「そんな喋り方しても俺は靡かないぜ」


立ち上がって視線を合わせる、胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白、グロリアと同じ修道服、ベールの下から見える金糸と銀糸に塗れた美しい髪、太陽の光を鮮やかに反射する二重色、黄金と白銀が夜空の星のように煌めいている。


見る者を魅了するような美しい髪、瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、黄金と漆黒、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている。


「だ、だって、だってだって」


「はぁ、言葉になってないぜ………悪かったのは俺だぜ」


「そうだもん!絵本も読んで上げない!」


「え、えぇええぇ、さっきまで読んでくれるって言ってたぜ?」


「しらない!キョウのあほんだら!」


「そうやって、普段のキョウなら俺は容易く靡くのに、バカだな」


「う」


背後から抱き締めて耳元で囁く、ホントに仕方の無い奴。


「絵本読んでよ、グロリアより先に」


「………文字、多いよ、多分」


「いいよ、キョウが読んでくれるなら」


だからグロリアの真似はしないようにな。


何だか鳥肌が――――。


「ほら、鳥肌」


「き、キモいよぉ」


「ひどくね?」

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