閑話171・『過去の二人は今の二人より―――』
今まで他者を支配する事で自分の世界を構成して来た、他人を支配する事でしか世界を構成する事が出来無いの間違いか?
他人を支配するのは容易い、優れた容姿とずば抜けた頭脳、そして経験値を蓄える事でモノにした人心掌握術、全てが私の力。
しかしそれで支配出来無いものがある事を知った、絵本を読んで上げながらチラチラとキョウさんを見る、私と同じ顔、私と同じ容姿、私の事が好き過ぎて私になったキョウさん。
無垢な表情のまま絵本に集中している、最近では少しずつ文字の多い絵本に取り換えている、本人は気付いているようで以前に注意された…連そして絵本を投げられた。
私はそれを受け止めながらキョウさんを教育した、キョウさんの癇癪は何処までも爆発的で何処までも攻撃的だ、表情が一気に変化する……そして罵詈雑言をぶつける。
まともな人間のソレでは無い、だけどキョウさんは私の為にそのような生き物に成り下がった、本人は成り上がったと思っているだろうか?足を遊ばせるキョウさんの姿についつい頬がゆるむ。
「キョウさん、少しずつ文字が多いのも平気になっているの気付いていますか?」
「無論」
「ふふ、何ですか、その口調」
「……んー、グロリア、すんすん、グロリアの匂い」
「こら」
「どうしてグロリアの髪はこんなにサラサラなのに俺の髪の毛は癖ッ毛なんだろ?そこも一緒になりたい」
「癖ッ毛、可愛いですよ?」
「やだ、髪の毛もグロリアと一緒がいい」
頬を寄せて来る、しかし話の内容は何処までも残酷だ、自分を否定してまで私を愛する、私になりたいと強請る、これが私の教育の結果だ、だから否定する事はせずに肯定する。
「そうですね、何時か同じになれたら良いですね」
「んふふ、やっぱりグロリアもそう思うんだ」
「こらこら、あまりベッドで暴れては駄目ですよ」
「どうして?」
「可愛いキョウさんが床に落ちて怪我でもしてしまったら私はどうしたら良いんですか?」
「か、かんびょー」
少し涙目になりながら呟くキョウさん、頭をぽんぽんと撫でてやるとすぐに笑顔になる、精神は常に不安定で常に攻撃的、外でのトラブルが少ないのはキョウさんの天真爛漫さのお陰でしょう。
それにトラブルになりそうになったらあの忌々しい女性寄りのキョウさんに切り替わる、しかし嫌いでは無い、だったあの人もキョウさんですからねェ、だけど恋敵として認識している。
私よりもキョウさんに近い少女、キョウさんの為だけのキョウさん。
「俺って、最近さ、文字が多くても平気じゃん?」
「そうですね、立派な事です」
「このベッドから落ちても泣かない」
「……お、男の子ですからね、さ、流石です」
「グロリアはそんな俺が好きだもんなァ、ふふ、まいったなぁ」
「ま、参りましたか……」
合わせているが本音でもある、別に難しい文字が嫌いでも床に落ちて泣いても好意に変化はありませんがキョウさんについつい合わせてしまう、他人に合わせるのは得意なはずなのにどうも難しい。
それはキョウさんに本音で向き合えば悲しませてしまうかもしれない負い目があるからだ、気遣い、キョウさんにだけ私は………どうしようもない自分の変化に苦笑する、私の王子様は唇に指を当てて唸っている。
「昔のグロリアと俺に、今の俺とグロリアを見せてあげたいな」
こんなにも幸せになった私と、壊れてしまった貴方を?――――息を飲む。
吐き出す、嘘を。
「きっと、驚いて、喜んで、笑ってくれますよ」
「んふふ、だろぉ?」
蔑みの視線は、私でしょうか、キョウさんでしょうか。
昔の……二人。
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