第337話・『エルフライダーの飼い方は割と難しい』

周囲の人間も魔物も威嚇するように微笑むキョウ………魔力も瘴気も無い、純粋な笑顔、しかし含まれた狂気は何処までも高まる。


アタシはキョウの腕の中に抱かれながらそれを近くで観察する、スイッチが入ってしまったようだ、故に衝動を抑えられずに表面に狂気が出てしまっている。


これはこの子のせいでは無い、近くにいるアタシのせいだ、餌を頂戴と強請られたから指を沢山食べさせてとうとう腕まで食べさせた、それがお腹を膨らませると同時に狂気を膨らませた。


エルフライダーの厄介な所は悪食であると同時にこの何処までも膨らむ食欲だ、それは無限と言っても良い、何処までも何処までも広がって何処までも何処までもキョウを苦しめる、可哀想な生き物。


「魔物が逃げるな、襲って来いよ」


「周囲の人間にばれる様に殺意を飛ばさないようにね」


「うるさい、うるさい」


「あら、お母さんの言葉は正しいのよ?そんな事してると一人ぼっちになるわよ?」


「俺は最初から、おれは、一人だもん」


「ふふ、生意気、アタシを腕で抱いているのに寂しい事を言う」


「………あの檻の中にいるのはお肉、そこで俺達を見ているのはお肉?」


「キョウにとっては同じかもね、魔物も人間も同じ、それって平等って事でしょう?素晴らしいわ」


「平等に美味しい」


「聖女だわ、美しい、アタシの娘は全ての命を平等に愛しているの、声高らかにここで皆に伝えたいのに、世界はそこまで貴方に優しく無い」


エルフライダーの能力に狂わなくてもキョウに偏見は無く人種で差別する事は無い、基本的に自分や仲間を傷付けない相手には何処までも寛容で何処までも優しい。


それはあのシスターを狂わせるほどに異様な精神、恋して恋されて二人で完結しているだろうけど問題はそこでは無い……根本的にキョウは壊れている、最初から終わっている。


故にエルフライダーの能力に狂った時にその性質がより強く表面に出る、自分が欲しいと思った相手に手当たり次第に手を伸ばし自分にする、しかし誰かを取り込んだらその誰かを失う。


アタシのように一部になった者は良い、一部と認識しながらもキョウを愛せる……しかしキョウ自身は自分の手足のようになった一部を最初からそうだったと錯覚するのだ、いや、真実になる。


そして永遠に孤独なままさ迷う事になる、その寂しさを埋める為の捕食と現状の食欲はまた意味が違う、今欲しているのは単なる餌だ、自分の腹を満たすための餌、エルフライダーはエネルギーの消費が激しい。


それこそ使徒や魔王軍の元幹部や聖獣まで体内に飼っているのだ、餌を餌をと餌を求めてしまう………飼い方、エルフライダーの飼育方法はアタシが誰より熟知している、その事を考えたら取り込まれたのも良かったわね。


あのエルフの集落を取り込む計画もアタシが助言したものだ、それからは皆が勝手に進めてくれたけどアレは良かったわね、エルフ以外の存在を捕食するのはあのシスターが覚えさせた事だ、そこに良し悪しは無いだろう。


自分の神を創造する為に必要だと思う能力を持つ者を選別して捕食させる、だけどエルフライダーの餌は基本的にエルフだけなのだ、だからその場合は何処かでエルフを食べさせてバランスを……故に定期的にエルフを捕食させないと。


「魔物を見るのはもう良いわね、この魔物を管理する人間を見付けましょう」


「せ、せいじょ」


「………オイ、変な意味じゃないからね、間違った方向に」


「性女」


「オイ」


「……………とうとう母親にまで…………くんくん、こっちから良い匂いがする、ご飯だ、死のう」


「生きようとするのか死のうとするのかはっきりなさいな、はぁ」


本当に困った娘だわ、アタシが見ていないとどうなる事か。


しかし良い匂いか、当たりだと良いけどね。


この食いしん坊。


「指は飽きた」


こ、この。

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