閑話169・『血界○線で生きている作者、それしか生き甲斐は無い』

全身に絡み付くねっとりとした視線、娘に襲われたショックが俺の心をおかしくさせる。


動揺するな、動揺するな、動揺するな、見た目はロリの癖に思春期の野郎のような行動をしやがって。


ベッドの隅で意識しないように振る舞いながら絵本を読む手を進める、ねっとり、愛娘の視線は何処までも性的なもので恐ろしい。


衝動的に襲い掛かって来たと言っていたが俺の事を性の捌け口とでも思っているのだろうか?股間を思いッきり蹴飛ばして初動を制したが――――こええぇええ。


ちらちらちら、弟子のササと違って俺に対して妙に行動的つーか何つーか、大きく溜息を吐き出す………別に体を許す事に抵抗は無い、しかしムードも何も無いのは嫌だ、やだ。


女の子だし。


「おい」


「ママ、ニキビが出来ていますわね」


「ん?ああ、少しじくじくする………何だよ」


「いいえ、可愛らしい事ですわ」


「ば、バカ………母親にあまり可愛いとか言うな、バカ、ばーか」


「バカ言い過ぎですわ!?」


ぽんぽんとベットの上を叩くとキョトンとした顔をするので舌打ちをする、意図に気付いたのか俺の近くに寄って来る、隣に座られるだけで暖かな体温が伝わる……ガキは無駄に温いからな。


絵本を読んでいる俺に頬を寄せるように近付いて来る、むぅう、何も言わずに絵本を読み進める、この絵本は文字が少しだけ多いような気がする、ぐ、グロリアめ、少しずつ俺を教育しているのか?


錬金術師でもあるこいつにはつまらない子供の絵本だ、無理矢理付き合わせるのは心が痛む、それなのに俺の横から離れない、襲う事もしない……押し倒された時のショックはまだ俺の中で確実に残っている。


思った以上の力だった、ドキドキ。


「なんだよー」


「ママは絵本が好きですわね」


「う、うん、難しい本は嫌いだ、絵が沢山ある方が好き…………この絵本は少し文字が多くて、その、困る」


「確かにこれはママには少し早いかもしれませんわね」


「?……バカにされるかと思った」


「ママを?どうしてですの?」


どうしてと問われてどうしてなのだろうと自問自答する、雨の音は大きくなるばかりで止む気配も無い、自分自身に何度問い掛けても明確な答えは無いが母親が絵本しか読めないってそれって。


恥ずかしくなって視線を下げる、ぷるぷる、頬を膨らませて意図を伝えるが墓の氷は不思議そうに首を傾げるだけで何も言わない、お前は頭が良いから、俺は頭が悪いから、こんな母親でごめんなさい。


青色のサテンは鮮やかな光沢を放ちながら愛娘の幼い体を包み込んでいる、裾の隙間から紅色のサテンが見える、裏地に付けて作られているようだ、薔薇の縁飾りを付けて三日月の紋章が刺繍されている、それ以外にも多くの箇所に金糸刺繍がされている。


首を傾げると頭部にある小さな王冠が僅かに傾く、アーチやキャップが無い、内部被覆が皆無な独特の形状、サークレットと呼ばれる王冠だ、何度も首を傾げる愛娘は必死に俺の言葉の意図を読み取ろうとしている。


「お、俺って、難しい本嫌いだし、あんまり頭良く無いし、襲い掛かって来た娘の股間を蹴るし」


「さ、最後のは私(わたくし)が悪いので大丈夫ですわよ」


「その後に頭踏み付けて蹴り上げるし」


「容赦の無いママも好きですわ」


「麒麟の電光で焦がすし」


「まだ修復し切ってませんわ、ふふ、どれもこれも些細な事ですわよ?」


「?そう」


「ええ、そうやって娘にすら気遣いするママが可愛くて好きですわ、何処までも繊細で」


「そ、そう」


明るい薄青色の瞳はやや切れ長で色気がある、それがさらに細められるのを見詰めながら胸に手を当てる、ドキドキ、ときめいてる?


あ、口説かれてる!


「うわあぁああああああああああ、近寄るなーーー、お母さんを口説くのだめぇえええええ」


「チッ」


「ふ、ふん、本心でも無い事を言って口説こうとしても無駄だぜ」


「あら、今のは本心ですのに……絵本、難しいのなら私が読んで差し上げますよ」


「わあ、ほんと!」


「………ええ」


何だろう、急に母親のような顔になりやがって!母親は俺だぜ!ぷんぷん。


でも結局は優しいんだよなぁ。

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