閑話168・『墓の氷は―――死んだ、こんがり』
グロリアがお仕事に出掛けて外が大雨だと俺に出来るのはベッドの上で無様に転がる事だけだ。
ニキビが出来た場所を突く、頬っぺた、妙に疼くんだよなァ、でも触り過ぎると良く無いって言うしな!
グロリアに見せると『あらら、健康的で可愛いじゃありませんか、成長期ですしね』と柔らかく微笑まれた、ほら、やっぱりグロリアは気にしない。
だけど俺以上にご飯を食べるグロリアに出来無いのは不思議だ、何だかムカついたので指で頬を突くとグロリアに笑われた、逆に俺の方が羨ましいとか言うし。
古びたベッドは俺が転がる度にギシギシと悲鳴を上げる……外の大雨がその音を容易く掻き消してくれる、傘は渡したけどグロリア大丈夫かな?……教会に泊まるのかな?
親を待つ子供のような心境、そして俺の子供がそこに転がっている、どうして転がっているのかと問われれば具現化した途端に襲おうとしたからだ……近親相姦、ダメ、絶対。
今日の気分はそんな気分、雨音は何処までも延々と続く、こんなに水が落ちて来て空に暮らす人達は水不足にならないのだろうか??思いッきり股間を蹴り上げたからな、女だろうが関係無いぜ。
「うおおおぉおお、ですわぁあああ」
「うるせぇ」
「ま、ママ……外は大雨、想い人は外出中、そこに来ての具現化!か、勘違いもするでしょうに!」
う○ちするの?お尻を付き出して股間を押さえながら震える我が子に冷たい視線を向ける、我が子とはいえ突然襲われるとやっぱり驚くな、心臓が止まるかと思ったぜ。
ベッドの上でグロリアに買って貰った絵本を読みながら我が子の動きを注視する、また襲い掛かって来たら麒麟の電光で焦がす、こんがり美味しそうに焦がす、麒麟もヤル気満々だ。
「お前さぁ、服を千切ろうとする奴がいるか、レ○プだぞ?まったく、怖かったぜ」
「それは、つい」
「つい?」
「ぐへへへへへ、てな具合ですわ」
「擬音で語るな、全くわからん、このウサギさんを模したパジャマはお気に入りなのだ、無礼は許さん」
「そ、それのせいと言っているのですが?私(わたくし)をおかしくさせたのはその可愛いパジャマですわ」
「な、中身はどうでも良かったのか?」
「な、中身が一番大事ですわよ」
それは良かった、視線をベッドの上からゆっくり下げる、絹の法衣を纏った煌びやかな格好をした少女、宝剣に王笏、王杖、指輪、細かい刺繍の入った手袋、様々な情報が視覚から一気に流れ込んで来る、絵物語の王女のようだと心の中で思う。
ゆるやかで幅広な広袖のチュニック、十字に切り取った布地の中央に頭を通す為の穴を開けてさらにそれを二つ折りにして脇と袖下を丁寧に縫ったものだ、肩から裾に向かって二本の金色の筋飾りが入っているな、筋状に裁断した別布を縫い付けているのだ。
袖口にも同じ色彩の筋飾りが縫い付けられている、本繻子(さてん)と呼ばれる繻子織(しゅすおり)で編まれた素材、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の五本以上の糸で構築される織物組織の一種だ、経糸と緯糸のどちらかの糸の浮きが極端に少ないのが特徴的だ、経糸か緯糸のどちらかだけが表面に見えるのだがその職人技には素直に感嘆する。
密度が濃く層も厚い、さらに柔軟性もある、中央では高値で買い取りされると聞いている、光沢が恐ろしい程に強く服の形をした宝石のようだ、唯一の欠点は摩擦や引っかかりに弱い所だ、欠点と言える欠点はそれだけで非常に優秀な衣服なのだ。
自分の衣服にはこだわりがあるのに俺のパジャマは性欲に任せて引き千切ろうとする魔物、ぞくっ。
墓の氷こわい。
「あ、あんまり近寄ら無いでっ」
「ま、ママ、少しお時間を下さいっ」
「どうして!?」
「言い訳を考えますわ」
「言い訳を考える事を断言してる!ひぃいいいいい、ウサギさんのパジャマはやめてぇえ」
「中身だけですわ」
「中身もやめてっ!中身って俺だからなっ!」
性欲に狂った化け物め、俺は親子できゃきゃうふふしたかっただけなのに!
部屋の隅に高速で移動する、どきどき。
「…………怯えた表情でベッドの隅に逃げ込んで涙する………はっ、オッケーサインですわよね!」
「麒麟」
『はっ』
美味しく焼けました。
娘の性教育について考えないと駄目なようだ。
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