閑話167・『ニキビのある女の子は可愛いのに若い頃から化粧で隠すのな、さみしい』

深夜の鍛錬は自分を鍛える為に自分で決めた、何よりも付き合っている彼女より弱い現状が俺の精神を激しく揺さぶる。


青白い月の明かりが俺を照らす、何度も何度もファルシオンを振るう、ファルシオンを真っ直ぐ振り上げるのと同時に素早く右足を前に出し、ファルシオンを真っ直ぐ振り下ろすのと同時に素早く左足を引きつける。


その次にファルシオンを真っ直ぐ振り上げるのと同時に左足を素早く後ろに下げ、竹刀を真っ直ぐ振り下ろすのと同時に素早く右足を下げる、単調だ、単純だ、しかし素振りの基本をしっかりと押さえながら何時間もそれを繰り返す。


エルフライダーの能力に溺れて敵を圧倒するのが多い様な気がする、それは不本意だ、俺には、ザーーザーーーーザ、から教えて貰った剣術がある?だからそれを忘れては駄目なんだ、裏切られようが何をされようが技術は継承されないと。


汗が溢れる…………べ、ベッドに戻る前にお風呂に入ろう、今日の宿は温泉がついている、ありがたい事だぜぇ、汗臭いまま部屋に戻ったらグロリアに叱られる、くんくん、匂いを嗅ぐけど自分ではわからん、前にグロリアに匂いの事で虐められなかったけ?


記憶が飛ぶのが怖い、俺は過去にあった事をどれだけ忘れて生きているのだろう?エルフライダーの習性が俺を困らせる、忘れる事でしか生きていけない生き物、自分自身の欠点を忘れる為に剣を振るっているような気がする、怖いぜ。


「ふう、どんだけ化け物になってもファルシオンは重い、嬉しいぜ」


「そろそろ寝るデス、夜更かしは美貌の天敵デス」


「もう少しだけそこで見といてくれ、もっと疲れないと興奮して寝れないや、中途半端」


「………………………………」


「に、睨まないでくれって、それにお母さんは剣術わからないだろ?自分の子が好きでやっている事だぜ、少々は―――」


「赤ちゃんの美貌が崩れるのは嫌デス」


「うへへ、そんなに可愛いか俺ェ」


「可愛いデス、だからほら、お母さんと一緒に帰るデス、ふんすふんす、吹き出物が出来たら大変デス」


「そんくらい良いじゃん、健康的で」


「損失デス」


「は?」


「人類や魔物にとっての損失なのデス、ふんすふんす」


「は、鼻息荒いぜお母さん」


僅かな黄色が溶け込んだ白色の髪が月の明かりに照らされて輝く、卯の花色(うのはないろ)のソレは清廉で清潔で清純だ、人々に愛される色、勿論人間じゃ無い娘の俺だって愛してるぜ?ふんすふんす。


空木(うつぎ)の木に小さく咲く初夏を告げる可愛らしい花の名を冠した色……卯の花は雪見草とも呼ばれている……小さな花が健気に咲き誇る様が雪のように美しいからだ、しかし空木とはまた笑える、枝の内部が空洞である事からその名を与えられた。


この人の中身は空洞では無いのに、俺への愛情で満ち満ちているのにな、ファルシオンを地面に突き刺して溜息を吐き出す。


「そもそも俺に吹き出物が出来ても良いじゃん、グロリアも何も言わないと思うぜ」


「?」


「グロリアがさ」


「その人は関係無いデス、赤ちゃんとお母さんの世界に他の異物を入れないで欲しいデス」


「い、異物って」


「…………汚物」


「え」


「何でも無いデス、赤ちゃんが思った以上に外の世界に汚れていて少し心配になっただけデス」


伏し目がちになりながら呟くがどうにも雲行きが怪しい、お母さんは俺の体を心配するあまりに過保護過ぎる。


「吹き出物ある女の子って健康的で可愛いじゃんか、俺も含めて一部の奴らも人間味が無さ過ぎる」


「人間じゃ無いデス」


「わ、わかったよ………もう訓練は止めるぜ、ったく調子狂うぜ」


「ふんすふんす」


「はあ」


溜息を吐きながら頬を指で掻く、僅かな痛み、あ、ニキビっぽい。


「ニキビだ、あらら、いてて……シスターも不摂生が続くと出来るんだな」


「み、見せるデス………か、可愛いデス」


「言ってる事違うよな!?」


す、少し美容に気を使わないとな、祟木にでも聞いて見るか?


とほほだぜ。

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