第334話・『この娘可愛いでしょう、アタシの愛娘、ごはんはアタシ』

「みんな見学してるだけだな、まあ、金持ちしか買えないわな」


檻の中にいる魔物はどれも生き生きとしている……それぞれの魔物に飼育環境も合わせているらしいぜ、スライムの群れなんて初めて見た。


何時も木の枝から落ちて来てワンチャンの窒息死狙いだからな、顔に張り付いて呼吸困難をさせる憎い奴、強い弱いでは無く単純に害虫の範囲に含まれる。


俺の場合そのままモグモグ食べちゃう、魔物美味しい、高位の魔物も大好きだが単純な餌なら下位の魔物で事足りる、檻には術式が組み込まれていて隙間から逃げれない仕様だ。


スライム一匹で一日の食事が出来る、俺も捕まえて売ろうかな?魔物専門の冒険者の事が疑問だったけど成程と納得する、確かにノウハウさえ出来てしまえば中々に良い商売だ。


普通の生物よりも強靭だしな、しかし人に懐く事は無いだろうに、特殊な術式を組み込んで人に危害を加えないようにする他無い、魔物よりも人間の方が恐ろしくね?


「スライムってさ、何時の時代にもいるけど最初って誰か生み出したの?」


「そりゃ最初の魔王でしょう、初期の初期、もしかしたら今では忘れられた魔王はスライムだったのかもね」


「最初の魔王がスライムか、そして部下もスライム………勇者も頑張りようが無いな」


「そうでも無いわよ、今では時代が立ち過ぎて生みの親の影響が少なくなっているだけで元々は強力な魔物だと思うわ」


「あっ、貴族の女の子が買ってる、犬とか猫で良いのに物珍しさかな?」


「そりゃそうでしょう」


「か、買って」


「どうするの、言いなさい」


「食べる?」


「駄目、我慢なさい」


月の光を連想させる薄い青色を含んだ白色の髪、月白(げっぱく)の色合いをしたその髪は天に漂う月のような美しさだ、その色合いの髪の物珍しさはスライムに勝る、俺と喋っている姿は流石に目立つ。


髪の色合いとしては似ているから親子として見られるかな?いや、シスターに母はいないと思われているしなァ、腰に手を当てて色々と説明してくれる様子は単純に可愛い、微笑ましい、持ち帰りたい。


月が東の空に昇るの時に空がゆっくりと明るく白んでいく光景をも指す月白、そんな美しい髪をフレンチショートにしている、上品な印象を見る者に与える、前髪は斜めに流していて清潔感がある、無性に撫でたくなる衝動を抑える。


人前だぞ。


「ひ、人前だからツツミノクサカを撫でるのを我慢するぜっ」


「オイ、あんたさっき人前でスライム食おうとしてたでしょ?」


「食うのは大丈夫だろ、撫でるのは駄目だけど」


「なにその基準、ふふ、おかしな娘」


「お前の娘だぞ!あまり笑うな…………髪の色も白っぽいし、肌も同じように無駄に白いし」


「無駄言うな」


「親子に見えるかな、ねえ、つ、ツツミノクサカ、お、親子に見えるよな、見えるはず……あはは、なんだコレ、急に不安になる、俺っておかしいから」


「っ」


肌の色も同様に白いのだが頬の部分に奇妙な刻印がある、それが何を意味するのか俺にはわからない、瞳の色は薄い桜の花の色を連想させるソレだ……ほんのりと紅みを含んだ白色の瞳は見ていると心の底を覗かれているような不思議な気持ちになる。


全てが儚い色合いで構成された少女、穏やかな顔付きは幼女であるのに何故か包み込まれるようなイメージ、俺の母親は美人揃いだぜ、全く――――ロリだけどな、畜生、そしてどうして黙り込む?


畜生が我が子だから、人間でも魔物でも無いから?


「おかあさん、あっち、いこ」


「つーーーーーーーーーーーーっっ、ったくううううううううううううう、可愛いんだからっっ、ふ、不安になっても良いのよ!親子だからっ!」


「ど、どうした、急に?」


跳ねるようにジャンプして首に腕を絡まさせるツツミノクサカ、頬に熱烈なキスをされて驚く、柔らかい唇の感触よりも驚きの方が大きい。


生暖かいソレに嫌悪は無いがそれよりも恥ずかしいっ。


「は、はなせぇええええええ」


「お母さんって言ってごらん、ほら、キョウ」


「やだあああああ」


い、いきなり何なんだぜ!?


わけわからんが……少しだけ嬉しい。

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