第333話・『指食いロマンス』

けぷぷ、吐きそうになるけど母親の愛情たっぷりの『離乳食』なので我慢して口を押さえる、じとー、ツツミノクサカの視線が妙に冷たい。


周囲の人々は俺達を避けるように歩いている、ツツミノクサカの美しい容姿は儚げであると同時に世界から切り離されている、つまりは壁がある、親しく話す俺も物珍しく見えるのだろう。


暫く歩くと件のお店に到着……お店ってより会場?入場券を購入して園の中を歩いて買い物を楽しむらしい、入場料は安いけど販売している魔物はどれもそこそこ高いっぽい、そして街の中でこの土地だけ浮いている。


獣臭いしなァ、魔物園と書かれた立て看板を胡乱げに見詰める、魔物を飼育販売するのは確かに珍しいが人間の世界では昔から行われて来た、野生動物と同じく物珍しい個体はそれだけで観賞に耐え得るからだ、俺の横にもいるしな。


初期の魔物園は王侯が所有していた…………政治的に修好関係を結んだり影響下に置いて支配する事で植民地とした土地から珍しい魔物を集めてきた私的な施設でもあった、世界各地で自然と多元発生的に作られたソレは今でも続いている。


冒険者の依頼にも殺さずに魔物を捕まえろってクエストもあるぐらいだしな、園の中に足を踏み入れると巨大な檻が幾つも並んでいるのがわかる、それではあまりに無機質になるので樹木を植えて自然界を演出している、人間は姑息だな。


いや、お、俺だって人間だからそんな事を考えるな、うあああああ、考えるな、考えるな、考えるな、考えるな、考えるな、考えるな、考えるな、考えるな、考えるな、考えるな、考えるな、考えるな、考えるな、考えるな、考えるな、考えるな、考えるな、考えるな


周囲に人間がいるんだ、みんなに人間だ、お、おかしなことを考えると、おかしなことを考えると仲間外れにされてしまう、そうしてまた一人になる、夢を語って村で一人っきりだったように、あれ、そう、そして、誰かと出会って、裏切られて、人間のふりを。


「落ち着きなさい、ほら、アタシと手を繋いで―――みんな見てるわよ」


「に、にんげん、にみられる、ばかに、されて」


「まだ能力の影響を―――アタシがいるから、怖がらないで大丈夫」


「お客様?」


にんげんがはなしかける、おきゃくさま、ああ、けいびの、おおきなしせつであれば、なおさらだ、じーじーじーーーー、ざざざっ、目を合わせる事が出来無い、奇怪な音が奇怪なままで延々に、ああもう、虫が多いな、何処までも多いな。


若いそいつを殺してしまおうか、まものの餌にしてやろうか、どうなのか、俺の中でおれは。


「ああ、大丈夫です……シスターは神の啓示をこうやって突発的に受けるので、一般の方はあまり近くに」


「し、失礼しましたっ、そ、そうですよね、シスターを見るのは久しぶりなので些か興奮して――」


「わかりますよね?」


「あ、申し訳ございません」


「ほら、キョウ、追い出したから興奮しない」


「ううぅうう」


「魔物が多いとアタシ達の細胞が疼くのかしら?ふふっ、おいで、お母さんが案内してあげる、魔物の知識はお任せあれ」


「う、ん、あれ、さっきの、奴は」


「追い返したって、そんなに怖がらなくて良いのに、ホントに困った娘ねェ」


「お、おう、何だか少し頭の具合がおかしい、魔物の気配が多いせいか」


「下級の魔物だから自分を制御しなさい、高位の魔物を目の前にしているわけじゃないんだからね」


「目の前いるじゃん」


指差す、そのまま指を掴まれて捩じるツツミノクサカ、いたたたたたたたたたた、涙しながら引き抜こうとするが思った以上の力で掴まれていてかなり痛い。


そのまま歩き出すツツミノクサカ、叫ぶ俺と無表情のツツミノクサカのコンビは周囲の視線を集めてしまう、お、奥に行くほどに強力な魔物になっているのかっ、目の前に最強の魔物がいるけどっ。


「いてぇって」


「母親を指差すんじゃありません」


「痛い痛い、あ、スライムだ…………こんなに種類いるのかー」


「痛みよりも興味か、ほら、おいで、片っ端から説明してあげる、アタシの眷属はレアだからいないわね」


「指が折れちゃうって!」


「ひ、人の指を何本も食べてどの口がっ」


「指を食べた口」


ちゃんちゃん。

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