第331話・『ぽんぽん痛いぜ、撫でて欲しいぜ、ありがとだぜ』
や、やっぱりこうなるかァ、薄暗い路地裏には年季の入った汚れが広がっている、あまり長居したく無い。
はっはっはっはっはっはっ、犬がじゃれているのならまだマシだ、目の前にいるのは犬では無い、人間でも無い、魔物でも無い……アタシが製作したエルフライダーだ。
指だけで済ませようと思った、再生速度が食事の速度を上回っているしソレでどうにかしようと、だけど食欲は増すばかりで速度も上がる、片腕の大半を失いながら左腕でキョウを引き剥がそうとする。
しかし興奮状態にあるキョウはアタシの力を力でねじ伏せる、近くの人間にばれないように結界を張りながら魔力で肉体強化をしているのにその肉を魔力ごと捕食する、結局は全てが餌になる、全てがキョウの餌になる。
ふーふーふーふー、爛々と輝く瞳には知性の欠片も無い、そしてこの状態のキョウを放置しているのはアタシであり全ての一部であり女性寄りのキョウでもある、キョウはキョウらしく、のびのびと育てる、方針は同じだ。
だ、だけどアタシも生命体ですからねェ、痛覚はある、いたたたたたっ、発達した犬歯が肉に突き刺さる、腕はあげるけど肩はちょいまち、だけどキョウは止まらない、食欲のままに行動する、それがエルフライダー、本来の資質が歪んだ事で誕生した。
悪食の王、エルフ以外の餌を覚えて本質を見失っている、しかしエルフの集落を丸まる餌に出来たのは良かった、人間の世界でもエルフは希少だから食べられる内に食べといた方が良い、あ、アタシはそんなに食べ無くて良いわよ?い、痛いし。
「つーか、いたあああああああああああああああい!ちょっと!何時まで食べるつもり」
「んぁ」
犬歯が抜ける、抜けた穴からは血が溢れる、汚い路地裏の汚い地面をアタシの赤い血が染め直す、す、少しはマシになったんじゃないかしら、あ、アタシの血は高貴な血だものね、決して飲み放題では無い、あー、眩暈がして来たわ、ホント。
キョウは怒鳴られた事で委縮しているようだ、一気に壁際にまで移動している、や、野生動物かっ、怯える姿は小動物のソレだがアタシの腕の残骸を口に咥えているし、お、驚いても餌は渡さないって辺りが本当に野生動物、あ、頭が痛いわね。
「もぐもぐもぐ、もぐ」
「いたたっ、その残骸を―――返すわけ無いわよね、くそっ、繋げたら回復がはやいのに」
「あ」
「な、なによ、どうしたの?食べ過ぎてお腹が痛くなった?ほら、こっちに来なさい、お腹撫でてあげるから」
「うーーーーーっ」
「お腹だとわからない?ぽんぽんよ、ぽんぽん、いててっ、修復に時間もいるし、それまで例の魔物の店には行けないわね」
「くそっ、て、言った」
「は?」
「いつも、おれに、きたないことばつかったら、だめっていってる」
「あ」
「だめ」
「そうね、そう、アタシが間違っていたわ、ごめんなさい、ほら、おいで、ポンポン撫でてあげる」
「うん」
本当に困った子、何処までも愚かで何処までも正しい、ぽすん、背中を向けてアタシの前に座る、やれやれ、お腹を擦ってあげるとグルルルルと喉を鳴らす、確かに娘の前で『くそ』は駄目よね。
くすくすくす、キョウから説教されるとは思わなかった、背中が揺れる、まあ、急ぐ事も無い、結界も張っているし、住民に気付かれる事は無い………地面に苔が広がる、ついつい嬉しくて能力が暴走してしまう。
我が子から説教された事実がアタシを幸せな気分にさせる、成長を喜ぶ、しかし腕は相変わらず痛いわ、いや、それは違うか………既に腕は無いのに腕があるように痛い、生き物って不思議ね、ホント。
「おかあさんとおかいもの♪」
「こ、こんな時だけ、お母さんって―――え、魔物は買わないわよ?」
「?」
「魔物はお母さんで我慢しときなさい」
「???う」
「我慢なさい」
「うん」
しょんぼりしている、はぁ、図体だけ大きくなってもまだまだ子供ね、しかし魔物を売り買いするにはその凶暴性をどうにかしないとならない。
魔物使いがいるのだとしたら、キョウの餌に与えても良いわね。
「おかあさんのうで、あじあきた」
「……………し、ショックだわ」
痛いのにっ。
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