第330話・『指はポッ○ーです、ぽきぽき折れます』

どちらかといえばだ、どちらかといえば自分は生み出した物に愛情を与えない作り手だと思う。


しかしこの子は違う、自分の全てを捧げて開発した、理由は諸々ある、勇者も魔王も神すらも凌駕する奇跡の生命体。


勇魔に全てを奪われないように細工もした、そして、様々な過程を得て我が子は創造主であるアタシを一部にした、さ、流石にそれは予測出来無かったわね。


そして今はこうやって恋愛相談をしてくれるまでになった、本当に母親になったような気持ちだ、少なくとも魔王軍の幹部として過ごした日々よりも生き甲斐を感じている。


麒麟、勇者や魔王、そのような世界観を否定する異国の聖獣、全てが規格外でありキョウが一部に出来たのは奇跡に近い、そしてその麒麟がキョウを手に入れようと暗躍している。


キョウは無垢だ無垢だと口にするけどそれは過去の話だ、恋を得て愛を得て獣は変わる、しかし他の一部を誘導するような動きは如何なモノか、あの灰色狐ぐらいだろう、素直に信じるのはね。


あの子は様々な手回しが上手で世界の汚い事も良く理解している、しかし家族がいなかった過去が己を狂わせている、愛娘であるキョウを護る為なら何だってする、その心を隙を突いたのだろうと思う。


それだけキョウを好きって事、アタシはそんな灰色狐が嫌いでは無い、何故ならキョウに関する事なら信用出来るから、だからこそキョウも特別な感情を持っている、灰色狐に手出しするのはイコールでキョウを怒らせるって事。


普段はそんな素振りを見せないけどね、あの妖精に関しても同様だ、過去の一部を全て忘れてしまって新たに取り込んだ今の一部達……村を出て本心では孤独だったキョウの心の隙間を埋めた初期の一部達にキョウは特別な愛情を持っている。


そこに軽々と手を出した麒麟はバカなのか狂っているのかそんな彼女たちからもキョウを奪い去りたいのか、しかしアタシもいるし皆もいるしね、何より女性寄りのキョウもあのシスターを模倣したキョウもキクタもいる、魔王軍の元幹部も。


そうそう麒麟の好きにはさせない、だけどピンポイントで灰色狐と回線を――――そこはもう手は打っている、しかしキョウは本当にあの母狐が大好きなのね、何だか軽く嫉妬しちゃうわ、でも自分にしか無い役目もある、同じ母でもそこが違う。


狭く薄汚い路地裏に連れ込まれるのはアタシの役目よね?灰色狐には出来無い、他の母親にも出来無い、この子のお腹を満たすのは何時もアタシ、母乳は残念ながら出ないのよ?だからそう、何時もの様に、何時もの様に当たり前に。


アタシの肉を食べなさい、エルフライダー。


「うまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまい」


「だ、黙って食べなさい……誰かに見られたらソレだけで」


「それだけで、それだけでなに、なにがおこるの、れろ」


利き手は止めてと言ったのだが右手の指を噛み砕きながらキョウは聞き返す、あまりに無垢な瞳、座り込んだアタシに圧し掛かるようにして捧げられた右腕の指を一つ一つ捕食している、アタシの再生能力を行使すれば指が全て食べ終える前に再生は完了する。


流石に腕まで捕食されると面倒なので指だけで我慢して貰う、我が子の成長を喜びつつこうやって目の前でデータを手に入れられる事に感謝する、しかし科学者としてのソレよりもやはり親としての愛情が勝ってしまう、それが正しい事なのかどうなのか理解は出来無い。


下級の魔物を観察したいと言った時は少し感動した、魔物を統べようとする意識があるのならやはりアタシの子だ、高位の魔物は下位の魔物を支配して操る習性がある、より高位の魔王から与えられた習性だ、キョウは高位の魔物を取り込んだ事で無自覚でそれを行おうとしている。


骨までしっかりと噛み砕く、この子の為に抵抗はせずに魔力による障壁も消している、つまり今この体は見た目そのままの幼子の体、捕食する対象は幼くて柔らかい程良い、特にこの子はエルフライダーとしてまだ成熟していない、柔らかくて栄養価の高い餌の方が良いはず。


金糸と銀糸に塗れた美しい髪、太陽の光を鮮やかに反射する二重色のソレ、頭を抱き締めながら溜息を吐き出す。


「食事は上品に、っ、でも痛いものは痛いわね、」


「あ、せいり」


「生理痛じゃないわよ、現実的に右手の指を捕食されれば痛いでしょ?」


「わ、わからん」


「え、エルフライダーの能力に溺れる時は本当にポンコツになるわね、あのエルフの姉妹を取り込んだ時は仕込みがあったからマシだったけど」


「うまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまい」


「こ、こら、再生が終わった指から食べなさい」


「わ、わからん」


「…………はあ、お腹一杯になったら魔物を売っているお店に行きましょうね、約束よ」


「わかる、それは、わかる」


「そう、偉いわね」


可愛い娘がアタシを食べる。


幸せだ、そして、満たされる。


指は欠けていくのに満たされるなんておかしいの。

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