第329話・『お母さんで創造主でそして、優しい女の子』
自分の内に敵がいる奇妙な感覚に戸惑いながらも敵と認識して良いものか悩む、もっと可愛いやり方で恋愛バトルをすると思ったのに。
麒麟は無垢だ、無垢ゆえにあらゆるモノを吸収する、今の麒麟は俺の『悪い部分』をしっかりと受け継いでいる、愛を紡いだ時間が彼女をもう一人の俺に変化させている。
もう一人の俺と思えば対処もし易い、目的の為なら手段を選ばない化け物、俺がエルフの姉妹を仲違いさせて集落を滅ぼしたように、キョウには強く注意したからもう麒麟のお願いは通用しないだろう。
あいつもあいつで俺の事を想う気持ちが強過ぎて空回りする事もあるからなっ、今夜辺りにでもキクタと話しをしよう、あいつはあいつで本体は繭の中で孵化の日を待っている身、精神とはいえあまり酷使出来無い。
グロリアの仕事が終わるまでこの街を出れないしな、灰色狐とデートをしたのでこの街をかなり把握したぜ?ふんふんふーん、低級の魔物を愛玩動物として販売している店を見付けた、ほら、俺の体の大半は魔王軍の元幹部だし。
「貴族とかが買うらしいぜ、世も末だな」
「アタシの息子が同族の売り場に足を運びたいとか……ぶつぶつ」
「下級の同族だろ?ツツミノクサカには関係無いだろ、お前は高位で、俺の創造主で、母親で、ペットなんだから」
「う、うるさいわね、ホントに口ばかり上手くなって……麒麟の事は正直に言ったでしょ?」
「まあ、あんたは俺の創造主で俺を溺愛してるおバカだからな、麒麟の戯言なんてさ」
「そうよ、それに良いじゃない、あのシスター、アタシは嫌いじゃ無いわよ?地位もある頭脳もある美貌もある貴方への愛情もある、母親として娘が幸せになるのならそれで良いわ」
「それはツツミノクサカにもあるじゃん、地位も頭脳も美貌も俺への愛情も、あ、でもさ、ロリだけど」
「き、近親相姦は駄目よ」
「ロリだしな」
「アタシも好きでこの姿をしているわけじゃないからねっ!勘違いしないようにっ!」
「はいはい」
「それでこそアタシの最高傑作よ!」
「はいはいはい」
「――――――愛情を感じないわ、やり直し」
「うるせぇ」
緑王(りょくおう)と呼ばれる植物の属性を持つ魔王、そいつの腹心で愛娘であるツツミノクサカ、俺を開発した存在の一人?こいつのせいでエルフライダーの能力は、ざーーざーー、あはん、そう、今日は良い天気。
頭の具合がおかしいな、しかしここまで高位な魔物になると人間と何一つ変わらない、故に街中を歩いていても魔力さえ隠していれば騒がれる事も無い、キクタと同じようにツツミノクサカは頼りになるし俺の事を誰よりも理解している。
麒麟の状況を聞いたら呆れられた、恋をさせたのは俺なのだと説教された、え、エルフライダーの能力が発動している時は俺は俺を見失って、そう、他者を支配する化け物に成り下がる、故に説教されても明日には忘れている。
エルフライダーって脳味噌が小さい生き物なのかな?
「うるせぇうるせぇうるせぇ」
「まあ、何て品の無い」
「お前が母親の一人だろうが」
「まあ、何て品のある顔なのかしら」
「自分大好きだな……ちっ、でも麒麟が動けないようにしてくれるのは、その、あの、か、感謝している、あんがと」
「あら、可愛いじゃない、ちょっと、顔みせて」
「う、うるせぇ」
ち、調子が狂うぜ、ちらちら、月の光を連想させる薄い青色を含んだ白色の髪、月白(げっぱく)の色合いをしたその髪は天に漂う月のような美しさだ、ついつい見惚れる。
月が東の空に昇るの時に空がゆっくりと明るく白んでいく光景をも指す月白、そんな美しい髪をフレンチショートにしている、上品な印象を見る者に与える、前髪は斜めに流していて清潔感がある、無性に撫でたくなる衝動を抑える。
肌の色も同様に白いのだが頬の部分に奇妙な刻印がある、それが何を意味するのか俺にはわからない、瞳の色は薄い桜の花の色を連想させるソレだ……ほんのりと紅みを含んだ白色の瞳は見ていると心の底を覗かれているような不思議な気持ちになる。
全てが儚い色合いで構成された少女、穏やかな顔付きは幼女であるのに何故か包み込まれるようなイメージ、俺の母親は美人揃いだぜ、全く――――ロリだけどな、畜生。
「しかし魔物を売り物にするなんて良く考えたよな」
「そう?高位の魔物は人間を奴隷にして売り買いするでしょう?同じじゃない、魔物も人間もお互いを売り物にして仲良しよね」
「そ、うか?」
「貴方はそこに含まれないから安心なさい、全てを支配するアタシの子、アタシのエルフライダー」
「うん、お母さんの、お前の、言う通り」
「ふふ、良い子ね、可愛いわ、やっぱり」
ツツミノクサカは口元に手を当ててクスクス笑う、少し目立つ格好をしているので周囲の人間の視線が痛い、詰襟で横に深いスリットが入った独特の服装をしているからなぁ、東方服のように思えるが少し違うようにも見える、旗袍、チャイナドレスとも呼ばれる東方の民族のものだ。
様々な華が模様として表現されていて凄く綺麗だ。
「愛玩動物になった魔物とソレを買う人間を見て、少しは学びなさい、麒麟を上手に操る術を」
「おなかすいたー」
ぐるるるるるる。
「あ、アタシを食べるのは禁止よ、人前だわ、はしたない」
「うぁ」
お、なか。
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