第328話・『叱られキョウちゃん、でも興奮しちゃう、ふふ』
灰色狐とのデートを楽しんだ夜に急いで自分の内へと潜る、流石に今日はグロリアもなぁ――――助かった、二日続けてアレだと体を壊してしまう。
怒りが消えない、無駄に灰色狐を傷付けた事を、ああ、母親に見せるようなモノじゃねぇだろ、最後は笑ってくれていたから安心したが、それでもだ。
怒気を撒き散らしながらキョウを探す、何処までも広がる蒼い空と入道雲、なのに涼しい、湖畔の街は何時もと同じように静かで何時もと同じように静寂で俺を迎えてくれる。
様々な色を使って建物を塗装している、カラフルな色彩と古びた木組みが実に合っている、しかし今日はソレを楽しむ余裕すら無い、大声で半身の名を叫ぶ。
「キョウっ!!」
「う、うわぁ、お、怒ってるよォ」
粘度と糖度の入り混じった甘ったるい声、女の子らしい声、俺と同じ声帯を使って発声してるとは思えないその声に振り向く、情緒溢れる街並みに溶け込むように一人の少女が立っている。
ゴシック、ルネッサンス、バロック、様々な様式が混ざり合った不思議な景色の中でそれでも己の存在を見失っていない、微笑んでいるが微かに緊張しているのがわかる、どーしたよ?ん?
胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白、グロリアと同じ修道服、ベールの下から見える金糸と銀糸に塗れた美しい髪、太陽の光を鮮やかに反射する二重色。
黄金と白銀が夜空の星のように煌めいている、見る者を魅了するような美しい髪が風に揺れる、俺はゆっくりと近付きながら威嚇するように微笑む、少しひくひくと口元が震えてしまう、仕方ねぇだろ?
瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、黄金と漆黒、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている、俺と同じソレをゆっくりと睨みながら目の前に立つ。
全体的に線が細くて儚げな少女、シスターである事は疑いようが無いがシスターの枠に収まるような個性でも無い、俺自身、彼女の姿を誰よりも良く知っている、キョウ、俺自身であり、グロリアに並ぶほどに大切な存在。
俺。
「灰色狐、どうしてグロリアとの交わいを見ていたのか知ってる?」
「う、直球だね………麒麟が皆の回線を繋ぐように言ったんだよ」
「どうして従った?」
「う、あ」
「キョウは俺よりも麒麟の事が大事なんだな、わかった、じゃあな」
「き、キョウ!ま、待ってよォ、そんなわけないじゃん!?わ、私は――――」
「うるさいな、早く言え、要点を言え、嫌いになるぞ」
俺の言葉にキョウが大きく震える、俺を愛する半身はその言葉を受け入れられないのか小刻みに震えている、灰色狐の痛々しい笑顔が浮かぶ、そうか、全員見ていたのか、それによって問題が起こる一部もいるだろう。
麒麟の奴め、舌打ちをする、誰かに相談に―――キクタが良いかな、あいつは全面的に俺の味方だし良いアドバイスをくれそうだ、麒麟が嫉妬しているのはわかっている、何せあいつは俺と恋仲になりたいのだ、狂った聖獣め。
「ひ、そんな事を言わないで」
「――――――――――」
「わ、わかった、い、言うから睨まないで……麒麟の言葉に従ったのはその言葉に一理あるかなって思ったからだよ」
「へえ」
「キョウが一番大切にしてる人だからって、麒麟の言い分としてはこの人にキョウを奪われる前に―――って、皆を誘導してるよ」
「キョウは?」
「わ、私も大半の一部も相手にしてないよ、でも一度はその光景を……ね、キョウが愛しているのは確かだし、これから先に何かトラブルあっても嫌じゃん」
「お前のせいでな」
睨む、だけどキョウの言葉も少しは理解出来る、俺の一部の大半は過激な思想を持っている、俺に尽くすと言いながらも俺の大切なモノを奪う輩もいる。
だったら劇薬を投入して反応を見る他に無い、だけどそれはキョウの本心で麒麟の建前だ、麒麟はソレをする事で俺とグロリアの中を拗らせようとしている、そして自分以外の一部を排除しようとしている。
度し難いクズめ。
「はぁ、やり方汚い……あんなに可愛かった麒麟は何処に」
「き、キョウ、ごめんねェ」
「ばーか、許す……しかし、麒麟もお仕置きだな」
「キョウって怒ると怖いんだァ……か、かっこいい」
「は?」
キョウもキョウで最近は少しポンコツだしな、キクタに頼るぜ。
麒麟めェ、ぷんぷん、かなり怒ってるぜ。
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