第327話・『マザコンでケモナーで百合な主人公』

レヘンガと呼ばれる異国の民族衣装は軽やかで鮮やかだ…………多彩な生地は艶やかに装飾されている、刺繍やパッチワークによって美術品のような完成度を誇っている、宝石などで高級感も演出していて見る者を魅了する。


おへそ丸出しなのが恥ずかしいけどグロリアのプレゼントなので仕事で無い時ぐらいしか……仕事ってクエストだけどさ、やっとキスマークも消えて街中を堂々と歩けるようになったぜ、溜息を吐き出す、グロリアはお仕事中。


何時もの様に資料に目を通しながら無言で書きものー、何だか寂しいけど仕方が無い、部屋を出ようとしたら抱き締められた上にキスをされた、な、何だかここ数日おかしいぜ?別に嬉しいから良いけどよォ、ふふん。


「暫く滞在しないと駄目みたいだから遊ぶ場所を探そう」


このすぐ近くには内陸河川が潤した森や田園からなる大きなオアシスが存在する、ここに来るまでの罅割れた大地からは全く想像が出来無いぜ。


荒野にいきなり出現する潤いの街、近年の急速な住宅や産業の拡大により周囲の木々は薙ぎ倒され水は少しずつ汚染されているらしいがソレを上回る活気と熱気だ、街の中を歩くだけで蒸し暑い。


俺の言葉に返事は無く、わなわなと震えている人影が視界の隅に入る、ぐ、グロリアと遊べないから召喚したのは良いけど先程から無言だ、うう、無言過ぎて辛い、ちらちら、何度も見る、ふ、震えてやがるぜぇ。


目立つ二人だと思う、親子揃って久しぶりのお買い物なのにどうしたよ、なあ灰色狐?だけど予感を感じて俺も強く聞く事はしない、鼻歌をしながら周囲を見回す、誰も彼もが俺達に注目している、目立つからなっ。


ちらちら、薄暗い空に漂う雲のような色合いの髪、襟首より短い位置にきっちりと切り揃えられたサイドの髪、前髪も同じようにきっちりと切り揃えられていて几帳面さを強調しているようだ、ぷるぷる、震えてる。


褐色の肌にはシミ一つない、若さからか漆器のような艶やかさがある、服装は東の方で着られている『東方服』(とうほうふく)だ、服の脇からスリットにかけて幾つか紐を結ぶ部分が存在している……そして脇に近い部分は斜めに紐が取り付けられていて特徴的だ。


幾つかの紐は解けていて柔肌が見えるのはコイツの怠惰さ故だろう、黒の布地に蝶々の刺繍が良く映える……草履で足を掻きながら色気の無い平らな体を不機嫌そうに揺らす、は、母親が不機嫌だと子供は不安になるものだぜ?


「あ、あのさぁ」


「っち」


「は?」


「ビッチじゃ!」


「え?」


紅い瞳が俺を見上げる――猫のような瞳孔が俺を射抜く、頭の上では狐の耳がピコピコと忙しなく動いている、周囲の人々がひそひそ話を始める、そりゃそうだろうよぉ、幼女が叫ぶような単語では無い、お、俺の聞き間違いか?


尻の後ろに垂れ下がるのも狐のソレだ、灰色のそれは光沢のある毛並みをしており手入れの良さを物語っている、それが徐々に天を突かんばかりに逆立つ様を見ながら溜息を吐き出す、も、もしかして呼び出す一部間違えたかな?


「灰色狐、ちょ、声が大きいぜ」


「わ、儂の可愛いキョウがいつの間にかあのシスターに躾けられてビッチになってしもーたっ!あーん、あーん、あーーーーーーん!」


「泣きたいのはこっちだぜ!ビッチじゃねぇわ!ピッチピッチの美少女だぜ!」


「ビッチビッチの我が愛娘じゃあああああああああああ」


「字面が酷いっ!?そんなに尻軽じゃねぇーぞ俺っ!訂正しろっ!」


「ピッチ×ビッチの尻重娘じゃあああああああ!」


「…………不思議だぜ、ビッチを一部訂正してピッチにしたのにビッチ感増してるじゃねーか、そして誰のケツが重いんだゴラァ」


「すんすん、儂のキョウ」


「………ほら、鼻をチーンしな」


「じゅびび」


ハンカチで鼻を拭いてやりながら溜息を吐き出す、そうか、グロリアとしているのを見ていたのか、回線は切断しといたはずだけどキョウの奴、若しくは麒麟か??いや、あいつにそこまで権限を与えていない。


麒麟がキョウを動かしたか?ちっ、後で問い詰めないとな、可愛い俺の奴隷だったのに色気づきやがって、麒麟は学習能力が高く分析能力にも優れている、今まで大切に育てられて来た聖獣は俺を欲するようになって一気に変わった。


それが望む変化なのか望むべきでは無い変化なのかはまだわからん、しかしグロリアに対してのアレもなぁ、今回の灰色狐も?俺の可愛いグロリアや灰色狐を傷付けようとするだなんて、麒麟、麒麟よォ、キクタに相談しようかなぁ。


「すんすん、じゅび」


「鼻水たくさん出るのな」


「は、ははのあいじゃ」


「こんな愛はやだぜ?おいで、一緒にお買い物しよう……グロリアの事は許してくれ、お互いに好いてるんだもん」


「う、うん」


「今日は灰色狐だけの『キョウ』でいるからさ」


「わ、儂は何時だってキョウだけの灰色狐じゃ!」


両手を上げて叫ぶ母親の姿があまりに愛らしくて抱き締めてしまう。


麒麟め、何を企んでやがる。


俺の母親を利用したら殺す。

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