第324話・『世界で一番綺麗な生き物が世界で一番綺麗な生き物と』

すんすん。


すんすんすん。


何だか粗雑にベッドの上にポイされた、ゴミかっ、ゴミなのかっ。


しかし触れただけでわかる高級感、グロリアの借りた部屋は無駄に格式の高い装いをしている。


あれから半日も街の中を連れ回されて買い物にも付き合わされた、足腰が痛い、昨日から歩きっぱなしだぜ?


あの獣との戦闘もあったし麒麟との交わりもあった、うつろうつろ、眠い、自分の意思とは別に体が寝る事を強制している。


しかし目の前にはグロリアの姿、俺のお腹の上に小さくて生意気なお尻を重ねながら無表情で俺を見下している、既に日にちは変わってしまった。


俺の体は限界を迎えている、視界が薄くなる、景色が薄くなる、遠くの方でキョウが『私と代わりなさい』と怒気を含ませた声で叫んでいるのがわかる。


それこそここで変わってしまったら戦争だ、窓から差し込む月の光は何処までも淡く透き通っているのに目の前のグロリアからは研ぎ澄まされた殺気のようなモノが溢れている。


月の光は刀剣を美しく染める、しかしそれ以上にグロリアを美しく染める、まるで無駄の無い刀身のように一切の無駄が無いグロリア、神様も良くこんなにも美しい生き物を創造したな。


それに見下される形になりながら俺は小刻みに震えるだけ、両手を布キレで拘束されて抵抗も出来無い、俺と同じ顔なのに全く別の顔に見えるグロリア、俺はこんなにも冷たい顔は出来無い。


頬に触れるグロリアの指は白魚のようでいて陶器のようでもある、ガラス細工のソレが際立ったかのように煌めく、月の光は白い肌を青白く染める、人間では無い全く別の存在に見せる、神様?


れろ、そのまま顔を寄せて首筋を舐める、グロリアの桃色の舌は小さくて可愛い、それでいて俺の気持ち良い所を探るのに優れている、まるでそれに特化した器官のように容易く俺の弱点を発見するのだ。


「あ、あん、ダメだって、く、臭いから」


「臭い?良い匂いですよ、キョウさんの体臭が濃縮されていて、すんすん」


「すんすんしたら駄目だって、ぐ、グロリアは変態さんだなァ」


「貴方がそうさせたんだろ」


「ひっ」


瞬きもせずに呟かれた言葉は鋭利な切れ味を持って俺の心を傷付ける、優しさの無い言葉、しかしそこにあるのは俺を求める欲望、耳の穴を舌先で穿られる、その奥にある脳味噌に直接命令するような動き。


耳朶の入り組んだ部分も執拗に舌先で苛め抜く、くちゅくちゅくちゅ、う、あ、意識が遠くなる、どうしてだろう?そう思った矢先に胸をさわさわと撫でるか撫でないかのギリギリな感じで触れられる。


羽毛が触れたかのような感触、安堵の溜息を吐き出したと同時になぶるように動きが激しくなる、全体を執拗に揉みながらその先を指先で苛め抜く、ま、周りは良いのにと思った瞬間に先端を苛められる。


「ひぃ、ひぃ」


「貴方が何時だって私をおかしくさせるのに、失礼な人ですね」


「あぅ、ひゃん」


「貴方以外には興味を持てなかった欠陥品の生き物に対して、よりにもよって貴方がっ」


「や、やめれ、わかったら、わかったからぁ」


「わかってませんね、れろ、この耳の穴の奥にある脳味噌が小さいから、キョウさんはおバカだから」


「ひう」


「私がどれだけ貴方を大切にしているか全くわかっていない」


ぐ、グロリアだって俺がどれだけ傷付いているのかわかっていないじゃん、は、恥ずかしい、汗に塗れた体を触れられて舐められて嗅がれて、いやいやいやいや。


泣きそうになる現状、しかしそれよりも快楽が優先されて腰がへこへこと滑稽な動きをする、だ、だって、太ももを撫でてくれるだけで、何もしてくれない、きたないから?


きたないから、なの、ぐろりあ。


「私は楽しみは最後に取っておく性質なので」


「ひ、ひはないから、さわんないで、やぁ」


「食事でも計画でも―――――さあ、どんな音がしますかね」


「ひぅう」


「…………可愛い、それに、良い匂い」


「しょ、しょんなこと」


「世界で一番綺麗ですよ」


全否定から全肯定の落差にどう反応して良いかわからない。


でも、グロリアが本気でそう言っているのはわかる。


だって目が、わらって、ないもん。

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