第323話・『いじめる、いじめころす、しね、すき』

麒麟の甘い匂いが鼻孔をくすぐったような気がした。


昨日の事を思い出して股をモジモジさせる、あ、あかんでェ、グロリアの方を見ると何だか冷たい瞳でこっちを見詰めている。


街の賑わいも何処か遠くに聞こえる、き、麒麟の奴め……首筋に手を当ててハッとする、グロリアは俺のもう片方の手を掴んで歩き出す。


口をパクパクとさせる俺の方を見ないで周りを無視するように、二人だけの世界、お、俺が悪いんだよな?でも麒麟は一部だ、恋人では無い。


俺が俺に恋をしているだけだ、それは自慰行為と同じなのに、どうしてそれを上手に説明出来無いんだろう?ふんすふんす、目がグルグルして鼻息が荒くなる。


「ぐ、グロリアぁ」


「はい」


「え、えっと」


「キョウさんの考えている事なんてわかってますよ」


「ほ、本当か?あはは、さ、流石はグロリア」


「夜、楽しみですね」


「え、き、今日は疲れたから無しって――――」


「日を跨いでからすぐにスタートすれば約束を違えた事にはなりませんよね?」


「へ、あ、そ、それだともっとしんどいけど、へ」


「駄目」


「ぐ、グロリア」


「駄目、決まった事です、お風呂に入るのも駄目」


「あ、汗臭いし、あ、あの、歩き続けて」


「駄目」


「う、あ、ひ、酷い、くんくん、汗臭い」


「そうですか」


酷い、俺がすんすん鼻を鳴らそうがグロリアは黙って俺の手を引く、嫌だ、汗臭いままグロリアと一緒になるのは嫌だ、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしくて死んじゃう。


グロリアは屋台で好きなモノを買いながら無表情で食べている、俺にも分けてくれるのだがもう夜の事が気になってそれ所では無い、周囲の視線が痛い、泣いている俺に集中している。


古都の中心で想い人から辱めを受けている、ど、何処か、何処かのタイミングで抜け出してせめて体を拭かないと、そ、それとも夜中に出掛けて、そう、逃げても良いんだ、き、麒麟を具現化して慰めて――。


「汗臭く無いですよ、ふふ、臭いますけどね」


「ひっ」


「キョウさんの『におい』です、どうしたんですか?先程から怯えてばかりで、私を楽しませるように努めて下さいよ?恋人なのですから」


グロリアは上品に微笑む、口元に手を当ててクスクスと笑う、グロリアの笑顔は大好きなのにこの笑顔は恐ろしい、目を逸らしたくなる。


想い人に臭いと言われて頭が真っ白になってプルプルと小刻みに震える、シスターがシスターを苛める様子が周囲にどう映るのだろうか?


宿に帰りたくない。


「酷い臭い」


「だ、だって、歩き続けて来たんだもん」


「そう、女の子なのに可哀想に」


「お、お風呂」


「駄目」


「お、怒るような事をしたなら謝るから、あ、謝るから」


「謝らなくて良いですよ、品の無い声で何時もの様に喘いでくれれば」


品の無い。


そう、思ってたんだ。


「ぁ」


「私はそれだけで満足ですから」


酷い、ひどい、ひどい。


麒麟、たすけて。

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