第321話・『シスター的挨拶とシスター的嫉妬(つつましく)』

グロリアと合流出来たし良かった良かった、起こった事を全て話すと興味無さそうに頷くグロリア、何かしらわかっていたのかな?


不老不死、シスターの存在自体もその分野に属するらしい、シスターは老いる事は無い、でも死は存在するんだろう?不老だけを極めた個体?


訪れた街は巨大で様々な人種が行き来している、このすぐ近くには内陸河川が潤す森や田園からなる大きなオアシスが存在する、ここに来るまでの罅割れた大地からは想像が出来無い。


荒野にいきなり出現する潤いの街…………近年の急速な住宅や産業の拡大により周囲の木々は薙ぎ倒され水は少しずつ汚染されているらしいがソレを上回る活気と熱気だ、街の中を歩くだけで蒸し暑い。


「もう宿は決めたのか?」


「ええ、同室ですよ?嫌ですか?」


「い、嫌じゃないけど……少し疲れたから、夜は、その、ごにょごにょ」


「それは残念、私もキョウさんに嫌われたくありませんから、弁えていますよ」


青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる美しい瞳が探るようにゆっくりと細められる、麒麟と色々頑張り過ぎたせいでそんな気分にはならない、キスの痕が無いか何度も確認をした。


しかし太陽の下では自信を無くしてしまう、な、何度も何度も確認したからきっと大丈夫、ベールの下から覗く艶やかな銀髪を片手で遊びながらグロリアはもう片方の手で腰の辺りを弄る。


胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白で麒麟との行為を思い出して引け目を感じてしまう、グロリアから俺を奪えるかな?麒麟の今後に期待だぜ。


古都の雰囲気は独特だ、この街は都市の歴史のあらゆる時代に遡る歴史的地区の宝庫でもある、荒れ果てた大地に奇跡的なバランスで構築されたオアシスはあらゆる権力者が欲したと聞く。


奪い合いの日々でこの街は傷付きながらも何度も増設され拡張された、異文化が入り混じった独特の景観はその為だ、何だか落ち着く、シスターであろうがエルフライダーであろうが受け入れてくれるカオスの土壌。


「ここで何のお仕事してたの?」


「秘密です、聞いても楽しいモノではありません」


「ぶーぶーぶー、俺は起こった事を全て話したのに卑怯だぜっ!」


「おや、キョウさんの首筋に赤い痕が――――」


「ひ、ひゃん、ひゃんのことら」


「嘘です、キョウさんも私に全て話していないではありませんか、ふふっ、お互いさまですよ」


「そ、そーか、え、何か疑ってる?」


「いいえ、何も」


「…………ご、ごめんなさい」


「屋台が多いですね、何か軽くお腹に入れときましょうか」


「………お、怒ってる?」


「怒ってません」


履き口に折り返しのある個性的なキャバリエブーツを鳴らしながらグロリアが先を急ぐように促す、確かのあの広場には屋台が集中している、グロリアは怒っていないって言ってるけどプンプンしてるじゃん。


花市が開かれていて賑わいは流石の一言……………市民の憩いの場になっているようだが今日は休日だっけ?周囲の視線を感じながら人波を避けて円の壁側に並ぶ屋台を見て歩く、指差す子供が『しすたーしすたー』と叫ぶ。


グロリアは涼しい顔をして手を振っている、グロリアの周りだけ周囲から切り落とされたように浮かび上がる、絵画のような一枚のソレ、ぽかーんと見詰めていると『おバカそうな顔になってますよ』と忠告される。


周辺には見るからに古そうな老舗のカフェやレストラン、お土産物屋が数多く立ち並んでいる、可愛いお人形や服も見える、後でグロリアと一緒に見て回ろう!


「こ、子供に笑顔、子供に笑顔」


「何時も一部の皆を上手にあやしているではありませんか」


「あれとこれを一緒にすんなっ!一部は一部だぜ、そ、そんなの、当たり前だろ」


「おや、珍しい反応ですね」


「俺の一部の多くは見た目よりも年齢重ねてるだろうが、子供の純粋さと比べられるものじゃねーし」


「キョウさんの精神年齢が幼いから丁度では?」


「んなっ!?こ、こいつ……」


「お子様」


お、お子様は首にキスマークねぇだろが!!そう叫びそうになって慌てて口を押さえる、むぐぐぐぐぐぐ。


………もしかして、グロリア、嫉妬してる?


女の気配、麒麟に気付いている?


まさかな、ははははは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る