第320話・『猿だろうが人だろうがエルフだろうが』

人を化かしたり待ち伏せしたり卑怯臭い生き物だな、黒焦げになって動かなくなった猿を見て、可愛いーー。


お猿さん、意外に可愛い顔をしている、でも白目からプスプスと煙が上がってるし体毛は焦げてしまって風に舞っている、はげちゃってる!


これが人間の手で生み出された生命体とは面白い、主もいない、意味も無い、どのような目的で生み出されたのかわからぬまま俺を殺そうとしたので俺に殺された。


可愛いので頭を足蹴にする、げしっ、生き物の頭部を蹴ると何時も思う、こんなにも重いのかと感心する、周囲に渦巻いていた霧は収束して消えてゆく、あれを変化させて騙していたのかな?


死んだ獣はどのような出生であろうと死んだ獣だ………美味しそうだから食べようかな、でもお腹一杯だしなぁ、あ、あまり食べ過ぎると、そう、夜中に食べ過ぎると太っちゃうから我慢しよう、そうしよう。


そう思って視線を伏せて上げた時には既に猿は人になっていた、一瞬のまやかし、あれ?可愛いお猿さんはいなくなって五十代ぐらいのオッサンが地面に転がっている、ぷすぷす、白目から煙出てるのはお揃いだなっ。


「あれ、お猿さんは?もんきー」


「この者ですよ、死に絶えてやっと人に戻れたようです」


「ふーん、もしかしてこいつが例の錬金術師かな?自分の術でおかしくなっちゃったのか」


「不老不死を望んだのに使役される獣に成り下がる、ありがちな事です」


「俺ってさ」


「はい」


「両親とも神様なんだろ?こいつみたいな真似をしなくても不老不死なのか?」


「恐らく、受肉していようが、魂の資質は隠せません、輪廻の波にも既に乗れないかと、今のご主人様はそれだけ神に近しい………前世はどうだったのかわかりませんが、どうなさいましたか?」


「何でも、無い」


「ご主人様」


ローズクォーツ、美容の秘薬とも呼ばれている女性の美しさや一途な愛を彷彿とさせる鉱石、紅水晶とも呼ばれていて美しい色合いで人々を楽しませる、そんな桃色の薔薇と同じ色合いの瞳が優しく細められる。


グロリアとずっと一緒にいたいから、そう、それだけ、今の自分にあるのはそれだけ、その感情を抑え込む、あまり考え過ぎるな、考え過ぎると暴走してしまう、望まぬ結果を手に入れてしまう、まだ考えるべき事では無い。


「神様になろうとしてお猿になっちゃうなんてさ、おかしいよな」


「ご主人様、この死体は―――」


「放置だ放置、人間だろうが猿だろうが死ねば大地に帰るだろうに、なぁんだ、つまんないの」


「満足出来ませんでしたか?」


「そうだな、もっとこう、もっとこう、夢のある生き物だと思ったぜ」


中身を見てみれば黒焦げのオッサン、同じ焦げている生き物なら俺に恋い焦がれている麒麟の方が良い、舌打ちをしてオッサンに土を振り掛ける、やっぱりこのままだと後味が悪い。


麒麟も同じようにしてくれる、どうして化け物に成り下がってまで、最初から化け物の俺には理解出来無い、人間のままで良いじゃんか、限られた寿命で良いじゃんか、どうしてそんな事を考える?


満天の星空を見上げる、あそこから落とされたんだよな俺、ふふ、お母様は知らないんだ、地上には薄汚れた生き物が沢山いるって事を、こうやって不老不死を望んで化け物に成り下がる輩がいるって事を。


「麒麟はこいつと違って夢がある」


「それはようございました」


「麒麟はこいつと違って股間にナニが無い」


「いい加減に怒りますよ」


「そうそう、そーゆーの欲しかったぜ?帰ろう、おてて繋いで」


「はっ」


帰ろう、グロリアのいる所に。


お前の恋敵がいる所に。


帰ろう。

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