第319話・『焼き猿、焼き人間、焼き腕、焼き腕が美味しい』

地面から出て来た獣、ずっと身を隠して俺達を待っていた?麒麟との触れ合いが楽しくて感知するのを怠っていた。


体を震わせる、先程の幻影と幻聴が少しずつ消えてゆくのがわかる、しかしそれはとても大切なモノだったはず、何時も俺はこうやって忘れるの?


今まで深く考えなかった自分の生態、エルフライダーの生態、全てを忘れる生態、そう、生き物としての機能、自覚出来無いまま無自覚で、わ、すれた、くない。


だけどとても痛かった、苦しかった、そう思った矢先に灰色の影が俺を襲う、脳味噌をくちゅくちゅするの、そうすると、あ、くちゅくちゅ、ああああ、きもちいいのぉ。


一瞬で全てがどうでも良くなる、おめめぱっちり、えっと、何だっけ、あの獣を観察するんだっ!飛行能力は無いのか俺達をジーッと見上げている、体の周囲に霧のようなモノを纏っている。


あれで人を惑わすのか?背や尾は暗褐色と黒褐色で地味な色合いをしているのに対して腹面は橙がかった白色をしていて闇夜にその顔が奇妙に浮かんでいる、顔の周囲と胸部や四肢は鮮やかな橙色をしている。


犬歯が発達していて鋭いソレが闇夜に光る、見た目は巨大な猿のように見える、発達した筋肉が脈動して鋭く天に伸びた尾が左右に揺れる、獰猛な息遣い、着地する俺達をしっかり見据えている。


「あれか、こわっ、猿じゃん」


「ご主人様、先程の一部は既に――――」


「ん?なにそれ?戦闘中に何を言ってるんだ?ふふ、おかしーの、俺が攻撃を仕掛けるぜ、俺を殺そうとしたんだ、殺す」


「はっ」


殺意が俺の中で膨れ上がる、俺から俺を奪う奴は殺す、俺から俺の一部を奪う奴は殺す、俺から俺の麒麟を奪う奴は殺す、俺から俺の仙人を、そうだ、女の仙人を、奪う、奴は、殺します。


殺しますよ、殺意が抑えられん、抑えるつもりもありません、その殺意が俺に命じるのだ、うるさい、俺に命じるな、俺に命令して良いのはキョウとグロリアだけ、くふふふふふ、俺、おれぇ。


夜空の星々の煌めきを背にして地面に降り立つ、うふふふふふふ、いひ、駄目だ、殺意って楽しい、感情で一番好き、一番俺らしく振る舞えるような気がして股を擦る、こする、ばれちゃう、麒麟にっ。


くふふふふ、おもしろーい、錬金術の力で符を構築する、閃きのように浮かんだ能力、これって誰の能力?ねえねえねえ、誰も答えてくれない、みんな無視してる、でもでもいいもん、これで殺すもん、わかんないけどね。


「雷光、仙波ノ孵し」


「ご主人様、それはっ」


符から解き放たれた術式が展開される、放電の際に放たれる熱量は三万にも達して空気を切り裂きながら対象に直撃する、人間であれば即死、魔物でも即死…………ふふっ、自己の魔力を使わない素敵な能力。


お猿ちゃんは避ける事も出来ずに電光に焼かれて地面を転げ回る、肉が焼ける匂いは食欲をそそるなあ、放たれたエネルギーは収束してまた符になって俺の手元で復元される、ぱちぱち、腕が焦げている、俺の腕。


どうしてだろう、この能力はまだちゃんと扱えない、俺の能力はみんなきちんと扱えるはずなのにおかしーの、ふふ、肉が焼ける匂い、俺の肉が焼ける匂い、ぐううううううう、焼き肉、焼き腕、それに齧りつきながら笑う。


「もぐもぐ、いたい、うまい」


「ぁぁ」


「だいじょーぶ、美味しいから、焼けた肉は何でも美味い、牛、豚、鶏、俺」


骨が見えるが気にしない、再生する所は生なので食べないよ!そう、生肉は危ないからな、牛でも豚でも鶏でも俺でも、ふふふふふ、焼けた部分だけ選んで食べれるよ!見てて!


苦しんでもがくお猿さんにもお肉をあげようかなァ、お猿さん、俺を騙したお猿さん、この生き物があの村で俺を化かした?何の為に?んふふ、俺の中にいる仙人?あれ、それが気になった?


そうかそうかそうかそうかそうか、お前は、お前は本来は仙人に仕える為に生み出される生物だものな、でも、俺は混ざり物だから殺そうとしたのか、殺そうとしていいのかな、おいしい、牛より美味し。


「けぷ、うまい、いたい、うまい、いたい、どっち」


「あまり食べ過ぎると夜中にお腹が痛くなりますよ?」


「そ、そーか、それはやだ、おろして、そいつみる、おれと手、つないで、ほねだけど」


「白くて綺麗な骨です」


「白く手、綺麗な骨?白い、骨の手?」


「はい、一緒に見ましょう、もがき苦しむ猿を――――」


「骨、かたい?」


「………ご主人様の骨は、素敵ですよ」


それって答えて無いじゃん、ぶーぶー。

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