第316話・『めんたま抉り放題サービス券』

妙に手つきがやらしーの、麒麟の可愛いおててが俺の頬やら前髪やらを優しく撫でる。


麒麟は聖獣つー立派な化け物なので俺を片手で支えるぐらい何でも無い、だけどその行動は奇妙だ。


まるで俺を愛でるようなその動きに呆れつつ何も言わない、この山の頂上まで運んでくれるのだ、文句は言わない。


謎の獣の痕跡を探る為に空を飛ばずに地道に登山しているわけだが先程から麒麟も俺も何だかおかしい、謎の獣なんて関係無しにおかしい。


麒麟は俺の一部の中でも最恐で最強で最凶の一部、こいつがいるだけで何も恐れる事は無いのに何だかこいつを恐れてしまっている、奇妙な感覚。


ドキドキ、まるで好きな女の子を扱うように俺を扱いやがって、意味の無い愛撫は確かな愛情を持って俺を蹂躙する、夜の世界で彼女の温もりが俺を安心させる。


「もう少しですね、寒くはありませんか?」


「お、おう、お前は無駄に温いから大丈夫だぜ?しかし糞も何も無いな、獣道にしては少し寂しいぜ」


「食事の概念があるのかすら怪しいですから」


「そうだなァ、どんな獣なのかな、お前みたいに可愛い獣なら嬉しい、灰色狐のように綺麗な獣なら嬉しい」


「我で事足りるでしょう」


「へ?な、何が?」


「ご主人様の下僕である卑しい獣は我だけで十分だと御進言したのですが?」


「え、あ、そ、そーかな」


「申し訳ございません」


「な、何で謝るの?別にいいよ、麒麟がそう思うなら………俺は別に怒らないよ」


「はっ」


どうも調子が狂うぜ、麒麟の視線はあまりに真っ直ぐであまりに俺しか見えていない、広い視野が無い癖に圧倒的な熱量で俺に接する、信者?それは何だか違う様な気がする、ササや炎水とはまた違う。


この手の感情には不慣れだぜ、それが何なのか何となく理解しているが俺自身も持て余すような感情だ、麒麟が苦しまなければ良いなと思う反面……少しだけ応えてやっても良いかもと思う、だってこいつは俺の可愛い獣なのだから。


ローズクォーツ、美容の秘薬とも呼ばれている女性の美しさや一途な愛を彷彿とさせる鉱石、紅水晶とも呼ばれていて美しい色合いで人々を楽しませる、そんな桃色の薔薇と同じ色合いの瞳に手を伸ばす、瞬きもせずにソレを受け入れる麒麟。


指で触れる寸前で止める。


「綺麗だから抉りたい」


「望むがままに………しかし我の瞳よりもご主人様の瞳の方が美しい、比較にすらならない、我の瞳などご主人様の瞳と比べたらゴミ当然です」


「お、俺の瞳を抉るのか?え……き、麒麟なら別にいいけど」


「お、お許しが出るとは思いませんでしたが」


「?麒麟なら何でもいいぞ、目だけじゃなくて、手足でも心臓でも瞳の奥を抉って抉って掘り起こして脳味噌を奪っても良いぞ?」


「―――――」


「ん?やっぱ瞳が良いのか?だったら抉ろうか?…………俺のは色違いだからな、左右、だったら両方欲しいよな」


「ご、ご主人様」


「俺が欲しいんだろ?そ、そーゆーのさ、よくわかんないけど、俺がグロリアを好きなように、麒麟も俺が好きなんだろ、ふ、ふーん、お、俺は可愛いから一部でも惚れちゃうかもな」


「我は、そ、そのようです、じ、自分の身分も、理解せずに」


「?いいじゃん、嬉しいよ」


鮮やかで艶やかな赤みを帯びた黄色の髪の毛先が震えている様子が俺を満足させる、緊張しているのか?緊張しているのは俺も一緒だぜ、お、お前は可愛いから、そんな風に言われると照れる。


照れまくるぜ。


「ご主人様、これから先、貴方様を不快な気持ちに―――」


「口説くんだろ?ナンパしちゃうんだろ、へへ、やって見ろ、俺はグロリアが好きだから奪ってみな、へへ、ずっとずっと一緒なんだ、永遠の間に一瞬だけお前と一緒になる事もあるかもな」


「ぎ、御意」


「がんばれ」


しかし両目を抉るのは痛そうだから適当に誤魔化そう。


片目ならあげたんだけどな。

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