第311話・『足裏は柔らかくて良い匂いだけど凶器』

爛々と光る瞳は凶暴性に満ち満ちている、自分が道具だと自覚すると同時にお仕えするべきこのお方に所有されている喜びを知る。


神にも様々な者がいる、しかしそのどれもが美しい容姿をしていて地上の生物とは比較にならない、見た目だけでは無く魂から発せられる生気がまるで違う。


ご主人様は最高位の神を親に持つ存在、二人の母から託された才能とカリスマは他者を容易に支配し魅了する、それが同じ神であっても関係無い、二柱の母から得た素養は悪神でもあり善神でもある。


本人はそんな事を気にせずに己のしたいように振る舞う、本来神々は天上で成長するものだがご主人様はその存在を秘匿する為に地上で育った、故に地上の者を見下すような事はしないし自分の特異性を理解していない。


下位の神である我を蹂躙しながら蕩けるような笑顔を浮かべる、捕食する対象として同族を見るのは神の資質では無い、それは地上で学んだ事?違う……元々の主であった肝無巽光(かんむそうこう)の血は確かに感じる。


強く強く人を惹きつける、そして支配して蹂躙する様はルークルットに似ている、その名も遠い日のルークルットの幼名から受け継いだ者だ、今日、狂神、凶、キョウ、しかしご主人様には何も関係無い遠い過去の話。


頭を踏み付けられてもがきもせずに受け入れる、このお方の心は常に満たされていない、孤独だ、地上に放たれた神は穢れて堕ちる……純度が高ければ高い程に穢される、人間の世界でどれだけ苦しんで来たのか?


ルークルットと同じで神を狂わせて従属させる特異な力を持っている、彼女はソレで姉を狂わせて自分のモノにした、ご主人様は神の眷属に属する存在を魅了して支配する、毒を振り撒きながら笑顔で前進する。


エルフは神が生み出した存在、それを筆頭に様々な存在を己の一部にする事で自己を獲得する、そうなのだ、精神的にも肉体的にも常に飢餓状態に襲われている、今までは過去に捕食した存在が『強力』だったのでそれが表に出なかっただけ。


使徒と言ったか?あれは高位の神に匹敵する存在、人造で生み出した神と言えば良いか?あれを過去に捕食した事で人格や肉体まで大きく影響している、しかしご主人様は『それが自分』としか認識出来無い、変わる前の自分を忘れてしまう。


「何を考えている?麒麟」


「ご、ご主人様の御身を――――」


「俺の事を考えているのに暗い顔をしないでよ、気分が悪い」


「も、申し訳ございません」


ご主人様の足裏は柔らかくて良い匂いがする、虫のように頭を踏み付けられることが新たな快楽なのだと脳内に刻まれる、人を支配する為に生まれたのでは無い、その血統は神々を支配する為の血統、純血であり世界が生んだ二柱の神の子。


神は二種類存在する、より高位の神に生み出されたり聖獣や聖人が何かの拍子で神の世界に足を踏み入れたもの、それとは別に世界そのものが生み出した虚空から誕生した神、前者のものと違って後者の神はこの世界を管理する立場であり全ての神の上位に立つ。


このお方はその中でもさらに特別だ、後者の神々が結ばれて誕生した存在、そのようなお方に仕える事が我の喜びであり我の使命でもある、奪って下さった、母親である肝無巽光から我を奪って己の眷属にしてくれた、己の一部にしてくれた。


「ふふ、潰しやすそうな頭………神様だって踏み付ければ地上の蟻と何も変わら無い」


「ご主人様からすれば全ては等しく蟻でございます」


「お前もか?お前も蟻か?………神様であるお前も、蟻か?」


「あ、蟻です……蟻に等しい卑しい存在です」


「ぷっ、ばーか、お前は俺の大事な一部だよ、訂正しろ、ご主人様の大切な一部ですって」


「へ、は、え」


「言え」


左右の色合いの違う瞳がゆっくりと細められる、喜んで良いのか自分の言葉を謝罪すれば良いのかわからない、頭が真っ白になる、靴を脱ぎ捨ててからご主人様は何度も何度も我の頭を踏み付けてくれた。


良い匂い、理性が崩壊する、そしてここに来て甘い言葉、労いの言葉、全裸で月夜の下で佇む主の肌は透き通るような白さで闇夜の黒を否定する……交わる事の無いソレ、舌を出しながらおどけて見せる。


命令を脳味噌が受け入れる、この人が蹂躙して調教してくれた脳味噌だもの、受け入れる、喜びを持って。


「ご主人様の大切な一部、我は蟻ではありません」


「合格、またあの小屋に戻ろうぜ、村人は戻って来ているかな」


「はっ」


「あっ、お洋服着せてー」


「み、御心のままに」


子供のように甘えて来るご主人様が愛しくてついつい動揺してしまう。


何度も踏み付けられたので額から血か出ている、手で拭いながら月を見上げる。


ご主人様と並び立った事が不運だな、今宵の月は少し澱んで見える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る