第309話・『だめだめだめ眷属』
夕暮れ時、誰も帰って来ない、そもそも俺が見た老人達ってどんな顔だっけ?思い出せない。
狐に化かされたような気持ちになる、人の気配が全く無く廃村のような状況、俺は夢でも見ているのか?
「誰も帰って来ない、そもそも出掛けた姿を見ていないぜ」
「そのようですね」
「山の向こう側を見てみたい、飛んで」
「御意」
麒麟の背中はあったかい、幼女の背中に跨るのに抵抗が無いのは俺がエルフライダーだからか?麒麟には飛行能力がある、背中に跨って欠伸を噛み殺す。
ここまで来たらあの獣と村人の正体を見破ってやるぜ、オレンジ色の空は哀愁を呼び起こす、故郷を思い出して何となく物寂しい気持ちになる、なので意味も無く麒麟の頭を撫でる。
「寂しいから撫でさせて」
「は、はひ、お好きなように」
「おう、しかし意外な光景だな………グロリアの言った通り、山の向こう側は別世界だぜ」
ギザギザの山のようなモノが幾つも並んでいる、岩肌は鋭く尖っていてその隙間に植物が幾つも自生している、石灰岩のような水に溶解しやすい岩石で構築された大地が様々な要素で歪に変化している。
雨水を中心に地表水や土壌水や地下水などによって長い年月を得て侵食されて構成された地形は見る者を圧倒する、それが空気中の二酸化炭素を消費する為の単なる自然現象でも人間はソレを見て感銘を受けるのだ。
カルスト地形には様々な生物が繁栄する為の要素が全て含まれている、似たような地形として石灰分を溶解した地下水によって石灰華が大規模に再沈殿して構築されるモノもあるがコレは前者のモノだ、夕暮れに染まる姿は絵本の世界だ。
「ビワやアザミがある、アザミは山ごぼうって言って食うと美味いんだぜ」
「食料は豊富なようですね」
「あの山より全然良いじゃねーか、こっちに村を作れば良かったのに、近付いてくれ」
「はっ」
「モリアザミだな、こいつは茹でても揚げても美味いぜ、しかも栽培をするのに向いている、あの畑に植えてやりたいぜ」
葉は鋭く深い切れ込みが特徴的だ、葉や総苞に棘が密集するように生えていて鋭く光っている、子供の頃はそれを知らずに触って泣いたっけ、親父に頭を叩かれた思い出がある。
頭状花序は管状花のみで構築されていて独特だ、菊のように周囲に花びら状の舌状花が存在していない、花からは雄蘂や雌蘂が突き出ていて攻撃的な印象を見る者に与える、針山のような姿はこの土地に似ている。
花色は赤紫色をしていて少し毒々しい、乾燥地や海岸を好む種が多いのだが……つまりは痩せた土地でも育つ、あの村にはもってこいだ。
「ツツジやシイは自生していないのか、変わった土地だな」
「それらは石灰岩質の土壌を嫌いますからね、しかし水はけが良いのはあの村と同じ、ここで育つ植物は村でも育つでしょう」
「だよな、俺が村長だったらあの村も潤うぜ」
「ご、ご主人様はそのような下賤な――――――」
「村長が下賤って何だか新鮮だぜ」
「こほん、ご主人様は自覚が無いようですね、二柱の最高神の間に生まれたその身は――――」
「お母様は悪神じゃん」
「う」
「もう片方のお母様もそんな悪神に惚れた駄目女神じゃん」
「ううう」
「そんな駄目女神の元眷属がお前でそんな悪神と駄目女神の間に生まれた俺に仕える駄目眷属がお前じゃん」
「ううううう」
「駄目駄目じゃん」
事実を言ったら麒麟が泣いた。
役得♪
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