第307話・『麒麟ちゃんは一部の中では最もつおい、えっへん』

奇妙な獣の事を正直にグロリアに話す、昨日は小屋に帰ってそのまま眠ってしまった。


両腕の修復に割と能力を使ったからな、何だか治り難いように感じた、魔法による呪いを受けた時の症状と少し似ている。


しかし敵からは魔力の気配がしなかった、敵、俺はアレを敵と認識していたのか?どのような生物かもわからない癖に妙に攻撃的だな。


自分自身がわからなくなって首を傾げる、そんなに凶暴な生き物だったけ?あの生物よりも俺って存在に疑問を覚える、エルフライダーって、攻撃的?


「そうですか、それでは私は次の街で仕事があるので、キョウさんとそこで合流しましょう」


「え、えぇぇえ、一緒に調べてくれないのか?」


「えっへん、お仕事をしないと駄目なのです、それともキョウさんはお仕事を放り投げて無責任な行いをする私の方が良いですか?」


「そ、そんな大人の言い方ズルい、わかったよ!教会で待ち合わせなっ」


「はいはい、今のキョウさんなら危険は無いと思いますが、安全第一で頑張って下さい」


「ふん」


「ふふっ、それでも心配なので信用出来る一部を傍に出しといて下さい、でわでわ」


「おう」


村を立ち去るグロリアの背中を見詰めながら伸びをする、村人たちの姿が見えないが何処かで仕事をしているのだろうか?廃村と言ってもおかしく無い村だ、人の気配を感じないばかりか死の気配が漂っている。


あの獣のせいなのか?取り敢えず村人にあの獣の事を聞きたいぜ、どう考えても食料が無いように見えるのに別段痩せた様子の無い村人、なのに塩漬けの肉は喜んで頂戴していた、矛盾だ、嗜好品として喜んだ?


だとしても塩漬けの肉だぞ?小さな山だけどあそこにもあの化け物以外に獣がいるだろうに、そんなに喜ぶような品では無いだろう?……そもそも何で腹を満たせている?猫の額ほどの畑では収穫出来る量も知れている。


座り込んで土に触れる、痩せた土だが砂利っぽいソレは水はけが良さそうで全てが悪いって感じでは無い、堆肥を十分施したらそこそこ形になりそうだ、水はけのいい土壌では水やりをしっかりする必要があるが近くに小さな川もある。


山から土を運んで混ぜ込んでも良いし努力する事で幾らでも改善の余地がある。


「それもしないでおかしいぜ、あっ、グロリアに一部を出しとけって言われたんだっけ、どうしてだろ?俺一人では心配なのかな、一部も俺なのに」


周囲に人の気配は無いし昨夜のような視線も感じない、昨日の獣の事を村人に聞きたいのに残念だぜ?しかし傍に控えさせるって事はあからさまな人外の一部は駄目だよな。


グロリアのアドバイス、何だか妙に気になる、ここの獣が何なのか実は知っているとか?くふふ、馬鹿馬鹿しい、だけど素直に聞き入れよう、誰にしようかなァ、ふふっ、ああ、あいつにしよう、そうしよう。


体を折り曲げてそいつを体の奥底から掘り起こす、肉が裂ける、俺の可愛いペチャパイが裂けて肉の瘤が出現する、醜悪なソレが俺の血肉を巻き込みながら人型を形成する、おろろろろろ、少しだけ吐いてしまう。


血液と吐瀉物が地面を染める、痩せた土地の栄養になぁれ♪ふふふふふ、吐き出した瘤がゴロゴロと転がって滑稽だ、早くなぁれ、人になぁれ、俺の可愛い可愛い一部になぁれ、体を折り曲げたまま深呼吸する。


「おぇ、おろろろ」


「……………お傍に」


「う、うるせぇ、何か拭くモノあるか?」


「し、手巾(しゅきん)ならこちらに」


「さっさと寄越せ、愚図」


「はっ、申し訳ありません」


具現化した一部に自然とキツイ口調で当たってしまう、ローズクォーツ、美容の秘薬とも呼ばれている女性の美しさや一途な愛を彷彿とさせる鉱石、紅水晶とも呼ばれていて美しい色合いで人々を楽しませる、そんな桃色の薔薇と同じ色合いの瞳が俺を心配そうに見詰めている。


頼みもしないのに細い腕で俺を支える、ロリ臭い、舌打ちすると僅かに震える、鮮やかで艶やかな赤みを帯びた黄色の髪の毛先が震えている様子が俺を満足させるのだ、山吹色(やまぶきいろ)のソレは前髪を水平に一直線に切り落としている、肩まで伸ばした髪も同様に一直線に切り落としていて清潔で整然とした印象を見るモノに与える。


「お、お前を具現化させるのが一番酷だぜ、難産だ、難産」


「も、申し訳ありません………この体がもっと小さければ」


「今でも十分小さいだろうが、クソロリ、そーゆーことじゃなくてエネルギー量の消費だよ、お前は強力だからな、だから頼りにしてる」


「は、はひ」


何故か顔を赤面させて頷く。見た目は7~8歳ぐらいだろうか?………俺の一部の中ではかなり幼い容姿だ、俺の腰ぐらいまでしか背丈も無いし妙にそそられる、生真面目さがその表情からわかるぐらいだ、余裕の無い幼女とでも言えば良いのか?神の造形物に相応しく全てが整っていて黄金律によって構成されている、美しい。


頭には頭巾(ときん)と呼ばれる多角形の小さな帽子のような特殊な物を付けている、そして右手には錫杖(しゃくじょう)と呼ばれる金属製の杖を携えている、やっぱりこいつは東を統べる神様の眷属なんだな、俺達の衣服とまったく違う、しかしそれも遠い過去の―――ザザッ、そう、こいつは最初から俺の一部だしな。


袈裟と、篠懸(すずかけ)と呼ばれる麻の法衣を身に纏ったそいつがゆっくりと額を地面に接触させる、腰の帯にぶら下げたほら貝を加工した楽器が何だか気になる……ふん。


「つ、使って下さい」


「使うさ、その為にお前を出したんだから……あっ」


「はっ」


「その可愛い額の瞳は瞑っておけ、村人に人外だとバレたら面倒だ」


「は、はひ、か、かわ」


「可愛い瞳、行くぞ、取り敢えず情報収集だ………グロリアの助言が気になるぜ、麒麟、俺を護ってくれ」


「ぎ、御意」


しかしどうしてそんなに狼狽えているんだ?


げ、ゲロがまずかったか?

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